ドラマでミヤコ蝶々さんと何度か御一緒した。ミヤコ蝶々さんはスタジオ入りする時に、いつも愛犬ゲランちゃんを連れて来る。
まず、ゲランちゃんが勢い良く、スタジオの廊下を走って来て、その後に蝶々さんが来られるのだ。
そんな時、蝶々さんの楽屋には「ミヤコ蝶々様」「ゲラン様」と書かれた札を掛けて置く。
「ゲラン、お前の名前もちゃんと書いてくれてはるでぇー」と蝶々さんが嬉しそうに言う。
楽屋の中には、会社の近くのダイエーで買って来た「犬用のビーフジャーキー」。
ゲランちゃんがしっぽを振りながら、それを食べる。
過酷な労働条件のAPの仕事の中で心が温かくなる一刻だ。
大阪・千里中央のスタジオでドラマの収録をやっていた時、中村玉緒さんは必ずお付きの人と二人で新大阪駅から地下鉄に乗って来られた。
「玉緒さん、新大阪からはタクシーに乗って下さい。精算しますから」と申し上げても、固辞された。
「地下鉄の方が時間が読めますねん。お気遣い有難うございます」
と玉緒さん。その飾らない人柄に感銘を受けた。
東京から大阪に来て頂く俳優さんには「新幹線の回数券」を渡していた。回数券には「グリーン車」と「普通車」がある。
当時、売り出し中だった内藤剛志さんには「普通車の回数券」を渡していたが、大阪・亀岡、どこのロケやスタジオでも長いコートを着て颯爽と現れた。かっこいい!
後年、僕が東京に来てドラマをやっていた時、偶然、東宝撮影所でお見かけした。大阪の朝ドラから十年以上の月日が経っていた。
僕は人見知り。内藤さんが僕の事を憶えて下さっているかなぁーと躊躇して、声をかけられなかった。しかし、内藤さんの方が気づき、気さくに声をかけて下さったのだ。
「久しぶりじぁないですか?元気にされていましたか?」
とても嬉しかった。あの過酷な撮影現場を一緒に経験した戦友の様に僕には思えた。
名前は出さないが、朝ドラを長くやっていて、スタジオに来る度に、「何故、僕は新幹線の回数券がグリーン車ではなくて、普通車なの?」と言い続ける若手の男優さんがいた。
僕は彼の話を半年くらい聞き流していたが、その彼を含めて若手の出演者と飲みに行った時、また同じ事を僕の横に座って言い始めた。
僕は彼だけに聞こえる様に言った。
「あなたがそんな事を自分自身で言うのは賢くない。それは事務所を通して言う事だよ。例えば、大女優さんを普通車には絶対乗せない。基本、視聴者を含めて周りのあなたに対する価値観でグリーン車に乗れるかどうかは決まると思うよ」
僕は酔っ払ってはいたが、気持ちは冷めていた。情けなかった。
東京に出て来て、ドラマ「天国への階段」(2002年4〜6月)のプロデューサーをやった。主演は佐藤浩市さん。
北海道で1ヶ月、沖縄・宮古島でのロケ。浩市さんとはとても親しくして頂いた。
ドラマが終わって何年か経って、TBS緑山スタジオで浩市さんとお会いした。
僕はその時、同じ宣伝部の女性と一緒だった。彼女は「天国への階段」でドラマの宣伝デビューしていた。
佐藤さんがその時撮影していたドラマが山田太一原作の「高原(こうげん)へいらっしゃい」。
宣伝部の女性が言った。
「浩市さん、今、『たかはらへいらっしゃい」というドラマ、撮影していらっしゃるのですね」
浩市さんと僕はスタジオのロビーで笑い転げた。とてもとても楽しく嬉しい瞬間だった。
宣伝部の女性はポカンと口を開けていた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます