日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

刀 兼法 Kanenori Katana

2016-07-11 | 
刀 兼法


刀 兼法

 美濃から遠江国浜松城下に移住した兼法。美濃で栄えた兼法一門も高い技術を保持して各地に移住しているのだ。この刀は、元先の身幅がたっぷりとして、鋒が伸び、南北朝期の大太刀を磨り上げたような姿格好。変わっているのは、表が平造で棒樋を掻き、裏が鎬造。このような表裏変わり出来の刀の使い勝手について、実際に試した方にうかがいたい。斬れ味はどうなのだろう、刃の切り込んだ瞬間の刃筋の動きはどうなのだろう、大変に興味がある。さて、地鉄は板目が流れて柾がかり、全面に厚く地沸が付いてその中に地景が流れうねっており、関映りも立ち冴えている。刃文は互の目乱。沸が付いて刃中は匂が満ち、これも斬れそうだ。相州伝。

短刀 兼法 Kanenori Tanto

2016-07-09 | 短刀
短刀 兼法


短刀 兼法

 兼法は美濃から越前に移住した刀工。この短刀は、一尺弱。先に紹介した政常もほぼ同じ寸法だが、印象が異なる。反りの付き方によってこのように違ってくる。地鉄は板目肌が細かな地景によって肌立ち、ザングリとした感がある。この「ザングリ」という表現は刀剣では良く使われている。板目肌から小板目肌に進化してゆく過渡期ともいえるが、板目の肌が縮緬状に細かに揺れていたり、小模様に杢目がそれに交じったりして、鍛着は密ながら肌が強く立って感じられる様子を指す。この越前に移住した刀工群にも多くみられるが、慶長頃の山城堀川國廣一門の特徴でもある。これが斬れ味に影響していることは間違いない。「ザングリ」とは、肌立つ鍛えでありながらも良い意味で用いられているのだ。刃文は湾れに小互の目交じり。焼刃は小沸に匂が複合し、所々に強く沸が付く。刃縁はほつれ掛かり、帽子もそれに伴って強く掃き掛けて返りは長く下がる。相州伝の影響を受けた美濃伝の一つ。いかにも戦場で用いるために製作された、という印象だが、頗る健全な状態で遺されている。




短刀 相模守政常 Masatsune Tanto

2016-07-08 | 短刀
短刀 相模守政常


短刀 相模守政常

 信高や氏房と同様に美濃から尾張に移住したのが政常。鍛冶の流れは兼常家。戦国動乱の時代には槍の製作に長けており、家康などに納めている。慶長年間に我が子二代目政常が亡くなったため再び槌をとっている。元和五年に八十四歳で長命を全うした。即ち、新古境の作刀において急激な進化が進んだ時代を生きた刀工だ。そして、この良く詰んだ地鉄の様子は、後に続く多くの鍛冶の手本となったに違いない。強く激しい板目肌から小板目肌へと移り変わる頃の、最先端を走る鍛冶の高い技術が窺いとれよう。詰んだ中に揺れるような肌が地景によって表れており、斬れ味も高そうだ。叢がないため刃中の沸付き方も均質であり、冴え冴えとしている。何より焼刃は沸だけでなく匂によっていっそう鮮やか。刃文は湾れにわずかに砂流しが働いている。



脇差 伯耆守信高 Nobutaka Wakizashi

2016-07-07 | 脇差
脇差 伯耆守信高


脇差 伯耆守信高

 二代目信高が活躍した時代は、寛永から寛文を経て貞享年間まで。時代的にごつい刀は比較的少なくなっているはずだが、信高には江戸時代最初期慶長頃のような脇差がある。美濃から移住した先の、武骨で知られる尾張の武士の求めに依るのであろう。この脇差も、一尺三寸半で、元先の身幅広く重ね厚くがっしりとして、姿だけでは慶長新刀と間違えてしまうほど。地鉄は小板目肌の中に板目がうすらと表れて地沸が前面に付く。矢筈風の刃文の所々に丸い玉状の飛焼を配した刃文構成も信高に間々見られる。沸深く強い焼刃に刃中の匂が組み合わされていかにも強靭で、刃味が良さそうだ。帽子は小丸返り。



刀 伯耆守信高 Nobutaka Katana

2016-07-06 | 
刀 伯耆守信高


刀 伯耆守信高

 飛騨守信高に作刀技術を伝えたと言われている初代信高の作例は頗る少なく、デジタル撮影した写真が用意されていないので、信高の二代目の作を紹介する。良く詰んだ板目鍛えに小板目肌が交じり、地景が細かに言って肌立つ風がある。刃文は互の目を主体とし、互の目が二つ並んで尖り調子となり、耳形あるいは矢筈形に見えるところに特徴がある。沸強く深く、刃中には匂が充満しており、その匂に濃淡ムラがあって景色を成し、この中を沸筋砂流しが流れ掛かる。帽子は浅く湾れ込んで小丸返り。時に帯状の沸筋が掛かり、激しい様子からも相州風を求めたことが分かる。信高三代目は、柳生厳包の佩刀を鍛えている。



刀 飛騨守氏房 Ujifusa Katana

2016-07-04 | 
刀 飛騨守氏房


刀 飛騨守氏房

 飛騨守氏房は若狭守の子。本作は見るからに相州刀。板目鍛えの地鉄は均質ながら地沸を切るように地景が交じって肌目が強く表れ、肌間は小板目肌が詰んでおりここも均質。このように整った地鉄鍛えが時代感を鮮明にしている。刃文は沸の強い湾れの所々に互の目を交え、帽子は掃き掛け調子に小丸に返る。この小丸に返る部分も江戸時代の特徴。焼刃は特に沸が強く、肌目に沿ってほつれ掛かり、沸筋、金線が層を成して走り、刃境の杢目が渦巻き状に際立つ。
 飛騨守氏房は武士として織田家に仕えた。主の信孝の死没後は父の元で作刀を学び、名古屋城の完成に伴って名古屋に拠点を移した。武家という立場で刀を考える立場にあったと思われ、同時代の刀が如何なる意味を持つかも良く知っていた。それが故に相州伝を極めたのであろう。因みに、同様に美濃国から名古屋に活動の場を移した刀工に信高がいる。



刀 若狭守氏房 Ujifusa Katana

2016-07-02 | その他
刀 若狭守氏房


刀 若狭守氏房

 直刃を焼くと伝法が良く分からない場合がある。特に戦国時代末期から江戸時代にかけての作は、技術交流を進めた結果、様々な作風に挑んで、あるいは様々な作風を取り入れ、より良い刀を生み出そうと試みた結果でもあろう。この刀は、板目鍛えが良く詰んで小板目肌鍛えに変わろうかという辺り。鎬地には柾目が強く表れており、ここに美濃伝の特質が窺える。刃文は沸の強い直刃で、刃境にほつれ掛かり、金線入り、砂流し掛かり、物打から一段と沸強く、帽子は強く掃き掛けて返る。沸を強く意識した作。相州物への挑戦が窺える出来である。



平造脇差 若狭守氏房 Ujifusa Wakizashi

2016-07-01 | 脇差
平造脇差 若狭守氏房


平造脇差 若狭守氏房

 氏房は美濃国兼房の流れを汲む刀工。兼房は兼房乱なる特徴のある刃文構成で知られており、ここでも紹介したことがある。だから氏房は、初期には兼房乱を焼いており、次第に相州風を強めてゆく。この作が兼房乱の刃文を焼いた例。地に深く入り組む互の目を基調に、互の目が複式に焼かれて茶の花房のようにも感じられるところがある。地鉄は板目に杢目を交え、肌立って地沸が付き、淡い地景が交じる。関映りも顕著に、匂口の締まった互の目の焼刃で、まさしく美濃刀。