火曜日の午後4時半、いつものようにモミィを音楽教室に連れて行った。
教室に入り、エレクトーンの前に座ってレッスンが始まろうとしたとき。
急にモミィが顔をしかめた。え、なんだろう…?と思ったら泣き出した。
「どうしたん…?」 こんなことって、今までなかったので、びっくりした。
「お腹、いたい」モミィはお腹を押さえて、弱々しい声を出した。
教室から連れ出してトイレに行ったが、それでもおさまらないらしく、
「いたい、お腹、いたい」と涙をポロポロこぼして泣く。 えらいこっちゃ。
廊下のソファに座らせ、家に帰るか? と聞くとこっくりとうなづいた。
僕一人で再び教室に戻り、先生に事情を説明して荷物を持って出た。
「お大事にね~」と先生やママたちの声が、背中から聞こえてきた。
そのままモミィを家に連れて帰り、あとは妻に託した。
家でもトイレに入り、下痢症状が出ていたそうだが、
そのあと妻が和室に布団を敷き、モミィを寝かせた。
僕は夕食の支度をし終えて妻が来るのを待ったが、
部屋からなかなか出てこないので、僕のほうから行ってみた。
妻は横たわっているモミィのそばで心配そうな顔で座っていた。
「身体中にジンマシンが出ているし、顔が赤く腫れているわ」
と言うのでモミィの顔を見ると、なるほど頬が赤く腫れ上がっている。
「お医者さんに連れて行かないとね」
と深刻な顔で言った。
すぐにタクシーを呼び、かかりつけの医院へ連れて行った。
幸いなことに、車の中でモミィは徐々に元気を取り戻してきた。
医院に着き、妻とモミィは診察に入り、僕は待合で待った。
しばらくして、2人が出てきた。
医院を出て、薬局へ寄って薬をもらい、帰途に着いた。
僕は「どうだった?」と妻に訊いた。
妻によると、診察室で医師が、
「何か普段と違うものを食べませんでしたか?」と尋ねたそうだ。
そこで妻は「そういえば、あれ…」と、あることに気がついたという。
3時のおやつのとき、モミィはカシューナッツを一粒口に入れた。
僕がビールのツマミに買ったカシューナッツが袋の中に残っていたので、
妻がコーヒーのアテにつまんでいたら、横からモミィが一口食べたという。
これまで、モミィはカシューナッツは一度も口にしたことがなかった。
妻は「今まで一度も食べたことのなかったナッツを食べました」
と、そのとき、医師に告げたのだった。
「典型的な食物アレルギーですね。下痢もそこから来たのかも知れません」
と、医師は慎重な口ぶりでそう言ったという。
モミィはもともとアレルギー体質で、今でも2ヵ月に1度、羽曳野市にある、
「大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター」というところに通院している。
2~3歳くらいまでは、大豆をはじめ、さまざまな食物アレルギーがあった。
しかし、ここ数年は、モミィは何を食べても大丈夫になった…はずである。
それが、カシューナッツを食べて顔が腫れるほどのアレルギーが出たのだ。
「顔が腫れてきたときはどうなることかと思ったわ」と妻が言った。
「ぐったりと、本当にしんどそうにしていたから」とも言った。
ちょうど新聞で「アナフィラキシーショック」のことが連載されていた。
その記事を読んでいた妻は、ひょっとしてそれではないかと思ったそうだ。
「アナフィラキシーショック」というのは、食物アレルギーから湿疹が出て、
顔が腫れて、ひどいときは呼吸困難に陥るという恐ろしい疾患なのだそうだ。
でもまあ、モミィの場合、それは杞憂に終わったことは幸運だった。
その夜は遅い晩御飯になったが、モミィにあまり食欲はなかった。
でも翌日はすっかり元気になって、幼稚園へ行った。
幼稚園の先生にもナッツを食べてアレルギーが出た報告をしておいた。
それにしても、カシューナッツというのは、恐い食べ物である。
食物アレルギーについていろいろ調べてみると、カシューナッツは、
ソバと並んで最も警戒すべき食べ物のひとつだ、とも書かれていた。
食物アレルギーは、呼吸困難の症状を引き起こすことまである…と。
そんなことを、僕は初めて知った。いろいろあるんだなぁ~
今更なんだけど、子どもを育てるって、ほんと大変ですね。
あれから2日経ち、もうモミィはすっかり元に戻り、走り回っています。
やれやれ…