昨日のお昼頃、ピンポーンと鳴った。
妻が出たら、郵便局からの小包だった。
それを抱えて2階のリビングに上がってきた妻が僕に、
「青森からゆうパックでリンゴがたくさん届いたのだけど」
と不思議そうな顔で言う。僕も何のことかわからなかったが、
依頼主の住所氏名を見て「あっ、あの方から」と思い当たった。
青森県十和田市にお住いの女性の方からである。
まだお会いしたこともなければ、電話でお話したこともない。
でも、今も僕の心に刻み込まれている1人の男の人の娘さんである。
以前にも書いたことがあるけれど、話せば長いことながら…
長いけれど、なるべく手短に、改めてそのことを書いてみます。
20歳の時の自転車旅行の話から始まるのだから46年前になる。
つまり1969(昭和44)年の話なので、めっちゃ大昔ですよね。
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これまで何度も書いてきたように、その年、
20歳だった僕は、6月中旬から8下旬まで、
大阪から日本最北端までの往復を自転車で走り、
70日間、ほとんど放浪のような旅をした。
8月の初旬。北海道から本州に戻って太平洋側を走り、
岩手県へ入って、石川啄木のふるさと渋民村へ来た。
そこには大きな啄木の歌碑が立っていた。
僕が歌碑の前の屋根つきベンチで野宿の準備をしていると、
かなり年配のおじさんが、自転車でやって来た。
自転車で東北一周をしているとのことだったので、
「へえ、このお歳で」と内心驚いた。
「私が啄木碑を訪れるのはこの30年間で4度目です」
でも、この前で写真を撮ったことがないのです」
男性が悲しそうに言ったので「じゃ、撮りましょう」
と、その啄木碑を背景に、写真を数枚撮ってあげた。
そして住所・氏名を交換した。その人は羽入さんと言い、
青森県の十和田市に住まれている、とのことだった。
「大阪に帰ってからになりますが、写真をお送りします」
「はぁ。よろしくお願いいたします」深々とお辞儀された。
そして羽入さんというその男の人とお別れした。
その時の詳細は「自転車旅行記」に記しています。
大阪に帰り、数枚の写真を羽入さんのご自宅に郵送した。
すると、折り返し、筆で書かれた丁寧な礼状が届いた。
そして冬には青森のリンゴをダンボール箱で送ってくださった。
そして、また予想もしなかったことが起きる。
それから10年以上経ったある日のこと。
突然、わが家に、羽入さんがやって来られた。
「兵庫県の壮年マラソンに出場してまいりました。
大阪に知人がいますので今夜はそこに泊まるのですが、
ぜひお目にかかりたく…」と、僕を訪ねてくださったのだった。
2人で当時の話を中心に、1時間ほど歓談した後、
羽入さんは、丁寧に挨拶され、わが家を辞された。
前述の自転車旅行ブログ(今から10年近く前のものですが)で、
羽入さんに関するそうした一連の話を書いたのですが…
青森県八戸市にお住まいで、教諭のTさんという方が、
たまたま僕のそのブログを熱心に読んでくださっており、
当時僕が自転車で走った青森、岩手などの現在の様子を、
僕のところに、メールで写真を送ってくださったり、
いろいろと興味深い情報を送っていただいたりした。
そしてそのT先生が、お忙しい合間を縫われて、
なんと、十和田市の羽入さん宅をお訪ねになったのだ。
T先生は羽入さんの娘さんに会われ(ご本人は亡くなっておられた)、
僕のそのブログを印刷したものを彼女に渡されたそうである。
T先生からメールでそれを知らされた時は、本当に驚いた。
その後、羽入さんの娘さんから、僕の住所が知りたいとのことで、
T先生へ問い合わせがあり、先生からその旨のメールを受けた僕は、
むろん異存はなく、先生に、わが家の住所をお伝えしたのである。
それがあって、今年のお正月にその娘さんから年賀状が届いた。
氏名の横に「旧姓・羽入」とあったので、その方だとわかった。
明けましておめでとうございます。お元気でしょうか。
T先生より自転車旅行記のコピーをいただき、
家族全員で拝見させていただきました。
父は3年前に空へ向かいましたが、
あなた様と絆を深めることができ、
今でもうれしく思っていることでしょう。
ありがとうございました。
年賀状を拝見し、ドラマを見ているような不思議な気持ちになった。
その素晴らしいドラマを「演出」してくださった
八戸市のTさんには、ただただ恐縮するばかりです。
世の中には、本当に親切な方がおられるものなんですね。
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46年の歳月がまるで夢のように過ぎましたが、その夢の続きが、
昨日、青森県十和田市から届いたリンゴの贈り物でした。
その贈り物の中に、
お元気でしょうか。少しですが青森の空気を
味わっていただければ、うれしく思います。
到着の連絡はご無用です。〇〇(お名前)
と、その方からのお手紙が添えられていました。
(むろん、すぐにお礼状を書いて投函しました)
いただいたリンゴは、とても甘くて、素敵なお味でした。
モミィも「おいしい~」と喜んでいました。
その、段ボールに並ぶツヤツヤのリンゴを見ながら、
昔々に大ヒットした「リンゴの唄」の一節を思い出しました。
♪リンゴは何も言わないけれど
リンゴの気持ちはよくわかる~♪
ぷりぷりのリンゴをカリリっとかじりながら、
つい、そんな古い歌を口ずさんだ僕でした。