すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.9 たったひとつの真実 前編

2008-11-08 18:19:10 | 小説
前書きです。

思えば、これが、ひさしぶりに、
妄想を、きちんと文章にして、小説にした、第一作目でした。

ただただ、すばる君に抱きしめられたい思いだけで、書き上げたものです。
「関風」の頃に、どうしようもない思いだけ、募らせていて、
実際に、言葉にしたのは、あけて、2007年の早春だったと記憶してます。

思い描いたシーンを、言葉にしていく作業は、
学生の頃以来のことでした。
書き上げたときは、妙に、すっきりしていて、
自己満足以外の何ものでもなく、

今、これを、改めて読み返すと、
恥ずかしさで、いっぱいになりますが、

よければ、お付き合いください。




まとまった休日が、久しぶりにとれたらしい、
という話を友人から聞いて、

彼女は、彼からの連絡を待っていた。


彼からのメールといえば、
数は多いけれど、
とても、ぶっきらぼうな文字ばかりで、

気がノらなけらば、
彼女のメールに返信さえしてくれない。

普段、休日を報せるメールだって、

『明日、休み』

だけ。

疲れてるから身体を休めたい、とか、
ほかの友人と遊ぶから、とか、
ましてや、
デートしよう、なんて文字は、
まったく見当たらない。

それでも。

たった5文字のメールだけでも、
彼女にとっては、嬉しくて、
大切な宝物、だった。

忙しい仕事の中の、
ほんの一瞬でも、
彼が、そのメールをうつ間は、
彼女のことを、思い出していてくれた証だったから。


そう、信じていても。
彼女にしてみれば。


彼が休みなら、ただただ、会いたい。

離れている間の、淋しさやせつなさを、
彼の笑顔やぬくもりで、癒してほしい。

二人きりの時間を大切にしたい。

ごく、普通の、
ありきたりな恋人たちのように。



でも、



それは、言ってはいけないこと、だった。

分かってる。
それは、彼が一番嫌うことなんだって。

会いたいから会う、のではなく、
会える時に会う。
でなければ、続かない。

彼が、口癖のように言う言葉だ。

けれど。

離れている時間の長さと、
会えない淋しさとが比例して、

押し寄せてくる不安の波に、足元をすくわれて、
彼の笑顔さえ、
思い出せなくなる夜も、あるのに・・・・・・

       でも、彼にとっては?



『今日の18時、会える?』

というメールが来たのは、
彼の休みが終盤になってからだった。

『大丈夫、会えるわ』

そうメールを返しながら、
ふと、彼女は、思った。

今の私は・・・

メールが来たというだけで、嬉しくて、
彼に会えると思うだけで、心が弾んで、震えるくらいで、

たとえ、大事な予定が他にあったとしても、

何より彼を、優先させてしまっている、と。

「ムリしたら、あかんで。
 ぼちぼち、ゆっくり、育てていったらええんやから」

付き合い始めた、最初の頃の彼の言葉は、
今の彼女には、足かせのようだった。









迎えに来た彼の車は、街中をしばらく走っていた。

それは、どこか目的地がある、というふうでなく、
ただ二人でいる時間を少しでも長くしたいがための、
彼なりの、思いやりだった。


初めのうち、彼女は、彼に会えた嬉しさに、
少し、はしゃいでいた。

いつもより、幾分、早口で、
おしゃべりだった。

とりとめのない会話を続けながら、
話しかけた彼の横顔が、元気そうなことに、安心していた。



やがて、車は街中を通り抜け、
高台にある、公園のパーキングに停まった。

あたりは、すっかり夕闇に包まれていて、
街の灯りが、
薄闇の星よりはっきりと、眼下に広がっている。

歩くのが、少し速い彼に遅れないように、
彼女は、彼の手を握る。

男の人にしては、小さめの彼の手が、
彼女の手を、包み込む。


歩き慣れた公園の片隅、
いつものベンチ     

ふと、会話が途切れ     

どちらからともなく交わすキスも、
彼女に触れる彼のぬくもりも、

彼女をせつなくさせるだけだった。

本当に彼女が求めていることは、他にあったから。



『休みの間、何してたの?』
『誰と会ってたの?』
『どこへ行ったの?』
『次に会えるのは、いつ?』
『私は、あなたの、なに?』
『私を、好き?』
『どうしたら、この不安は消えるの?』
『あなたは私に会えなくて、平気なの?』



それらは、聞いても仕方ないこと、だった。
聞く必要のないこと、だった。

今、ここに彼がいる、ということだけが真実で、
彼女の問いに対する、唯一の答えだったから。

けれど。

会えなかった時間の淋しさと、
彼が優しすぎることの不安と、
ぬくもりの温かさとに負けて、

彼女の心から、
次から次へと、それらは溢れ出してしまった。


こぼれ出す言葉たちとともに、

一粒、
また一粒、

涙が、滴り落ちた。

『泣いてはダメ、泣いてはダメ』
『言ってはダメ・・・言ってはダメ・・・』

思えば思うほど、
どちらも止まらなくて、
彼女は、彼の顔を見ることすら出来ずに、かぶりを振った。


「ちょっ・・・ちょっと待ってくれや」







後編へ、続く



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