曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

夢野久作「ドグラ・マグラ」の感想

2022-07-16 11:09:00 | 
夢野久作の「ドグラ・マグラ」、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」、中井英夫の「虚無への供物」の三冊は、独創性とか奇抜さから「日本三大奇書」と呼ばれている。

「虚無への供物」は三回読んだ。「黒死館」は20ページで挫折。「ドグラ・マグラ」は二十年以上前に上巻の七割くらいで挫折している。

Kindleを買った目的のひとつには、このドグマグを制覇することがあった。青空文庫になっているから無料だし。黒死館も青空文庫化されているが、読みきる自信はない。

で、昨日、ドグマグを読了した。ほぼそれしか読んでなくてバッテリーの消費量32%だった。Kindleすごい。買ってからまだ一回しか充電してない。

ドグマグは、読むと一度は精神に異常をきたすと言われているので警戒していたのだが、特になんともない。時間差でこれから来るのかもしれないが、今のところ、そこまで凄くなかったな、というのが率直な感想だ。

ドグマグは要約不可能とも言われているが、そんなこともないと思う。試しにやってみますか。

ネタバレするので、気になるかたは撤退してください。



語り手の「私」は、目覚めたら精神病棟に入れられていた。名前もわからないほどの記憶喪失状態。若林博士は、私が記憶を取り戻せば、ある殺人事件の謎が解けると言う。となりの病室には、私の婚約者だという美少女がいて、やはりおかしくなっているらしい。

若林博士は、私の記憶が戻るように、いろんな資料を読ませてくる。この資料が滅茶苦茶多くて超長い。上巻の後半から下巻の前半まで資料って感じ。

資料は一ヶ月前に自殺した天才的精神病学者の正木博士の論文とか、博士の自作の歌とか。この歌「チャカボコ~」が長くてキツい。最初のハードルである。言いたいことは、人間には胎児の段階で微生物からヒトへ進化するまでの記憶が細胞レべルで受け継がれてるということと、精神病患者は解放治療(放し飼い的な?)で治すべき、という二点。そして私は、正木博士の実験の材料みたいな立場らしい。

次に死んだはずの正木博士登場。彼も遺書や事件の調書など大量の資料を読ませてくる。この本のストーリーと呼べる部分はここの資料の中にある。資料以外は九大の精神病棟での問答だけの小説なので。

呉一郎という青年が母親の千世子を絞め殺した容疑をかけられる第一の事件。一郎が婚約者のモヨ子を殺した第二の事件。モヨ子は千世子の姉の子で一郎の従姉妹である。一郎は絵巻物を見て発狂したらしい。

絵巻物は呉青秀という唐代の天才画家が描いたもの。彼は新妻を絞殺し、その死体を死亡直後から腐敗するまでの六段階に分けて精密に描いた。呉家の男子は、その絵巻物を見ると、正木博士のいう心理遺伝というやつで、先祖呉青秀の精神状態になって美女を殺して写生しようとするという。

どうやら私は呉一郎っぽいのだが、解放治療場に一郎がいるのが見える。そっくりな双子かなにかなのか?

私が犯行の記憶を取り戻して解決、かと思っていたが、一郎じゃないなら私は何なの。一郎は犯人だよな?

そこから、実は正木博士と若林博士は学問のライバル同士で、さらに千世子を取り合った仲だったことが判明。千世子は呉青秀の子孫なので、心理遺伝の研究にはもってこいの素材なのだ。おまけに美人。

最終的には正木博士が勝つのだが、一郎がどちらの子なのかは分からない。

解放治療場で一郎が暴れて患者など五人を殺し、正木博士は行方をくらましたあと自殺したという記事が出てくる。それが十月二十日で、今は十一月二十日。

私は、一郎が絵巻物の絵ではなく白紙部分を見ていたという証言を思い出す。絵巻物を改めて最後まで見ると千世子の書き込みがあり、一郎が正木博士の子だと判明する。これで私は事件の真相に気づいた。本作で推理小説っぽいのは、このシーンだけ。

ここで終わり。私が記憶を取り戻してあっと驚く真相が明らかに.という展開にはならなかった。

十月二十日の出来事を、一ヶ月後に一郎が脳内再生したのがこの小説、と僕は解釈している。が、いろんなところが曖昧で、様々な解釈ができるようになってるので、他にも答えがありそう。

若林博士がモヨ子を蘇生させ、別の少女の遺体とすり替えたのは何だったのか説明がない。あの処置シーンは本作品の一番の見せ場?なのに。

書かれたのが戦前ということもあり、世間のイメージほどエロはない(いや、ドグマグはエログロというイメージだったんだけど。僕だけ?)。モヨ子は超絶美少女なのに、私は彼女との結婚を拒むし、お色気な描写はほとんどなし。黛子さんの死体が腐ってきて、破れた乳房が流れているという絵巻物の描写があるけど。

感想を混ぜつつ要約してみたが、どうですか。ちゃんと終わってないし、放置された伏線はあるし、私の結論が述べられてないしで、執筆に十年かけたわりには完成度が高くない。これらの不備も作者の計算なのかもしれないけど。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする