蠅を叩たたきつぶしたところで、蠅の「物そのもの」は死にはしない。単に蠅の現象をつぶしたばかりだ。
ショウペンハウエル
カリフォルニア工科大の研究によると「ハエは、ハエたたきが自分に向ってくるのを確認するとすぐ、次の1/100000秒の間に足を動かし体勢を整えて逃げる準備をしている」らしい。ほとんど機械のような生き物。
ショウペンハウエルの現象は、たとえ偶然ではあっても、1/100000秒の間の動作に勝った成果になる。
蠅も死ぬが、はえたたきという行為も死ぬ。死ぬことと死んだものとを区別するのは、蠅が死ぬ前の状態の記憶であって、物自体ではないということを皮肉を込めて「蠅の「物そのもの」は死にはしない。」とショウペンハウエルは言った。生と死の境界をより上位の概念でとらえ直せば、生を与えているのは人間の主観である。
アニメーションも同じで、止まってしまえばただの絵に過ぎないが、止まる前の記憶があって初めて人間の意識は絵に生を認めている。
この先、アバターのような映像に限らず、あらゆる人工物があたかも生きているかのように振る舞う時代になるだろう。確固たる哲学をもたなければ、蠅の死さえショウペンハウエルのように区別がつかなくなるだろう。
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