公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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硝酸態窒素の行方

2017-01-31 10:01:53 | 経済指標(製造業)

6年前の投稿を再度掲載

地球はシステムである。システムには外と内、始まりと終りがある。




はらはらと銀杏の葉が降り積もる絵は、太陽の光で無限に生産される有機物の蓄積を期待させるが、さにあらず。

地球の作物の増加速度の制限条件は硝酸塩供給量(吸収量)である。

水供給が耕地生産量の上限を決定してたならば、緑の革命でこれほどまでに穀物生産量は増えなかったろう。緑の革命は品種としての「農林10号」の働きだけで達成できる物ではなかった。品種はあくまでも効率を左右する物で、絶対量は窒素源の増加に基づく。

カールスルーエ工科大学教授ハーバーはアンモニ ア直接合成の研究に積極的に取り組んだ。1909 年 7 月 2 日,ハーバーは実験室的規模とはいえ,98 g のオスミウム触媒を使って 175 気圧,550°Cで毎時 80 g の液体アンモニアを得た。合成実験成功,これ が 20 世紀化学工業の幕明けを告げる輝かしい実験 である。元文献

つまり、石油をエネルギーとして空気中の窒素と天然ガス中の水素を反応させアンモニアをつくり、さらにそれを窒素源としてアンモニアを硝酸塩に転換できていなければ、天然の固定能力だけでは私たちの体の半分も維持されていない。
硝酸塩はやがて空気中の窒素分子やアンモニアに変わるのだが、すでに毎年の生産量は自然脱窒能力の倍供給過剰になっている。なんと自然に固定される窒素の4倍もの硝酸塩が工業生産されている。食の窒素源としては半分以上が工業性の窒素である。
1KGの肉を輸入すると1トンの水(バーチャルウォーター)を輸入する事になると言われるが、現在地上の窒素はどのくらい自然に由来するかといえば、5分の1しかない。いわばバーチャルオイルが私たちの食生活を支えているのだ。

日本はどうかというと。日本は耕地面積が小さいので、耕地面積あたりの硝酸性窒素輸入量は世界一多い(農林水産省はホームページ中で日本人が摂取している硝酸塩の量が、一生とり続けても安全と決めている値を超えていると報告しているそれはまた別の問題なので施肥との因果関係の慎重な検討が早急に必要ということは、規制のない野菜に残留する硝酸塩摂取が健康問題に関係するのではないかという指摘産総研の研究報告にもある)。

この硝酸性窒素が国内農業の生産性を支えている。三井物産の資料によると、「こうした背景から、アンモニアの需要は今後、年率3~4%以上の増加が見込まれている。特に、食糧危機が危惧されるアジア、中南米、アフリカでの需要の伸びは確実であり、このため、アンモニアが食糧需給の戦略物資と位置づけられている。」と書かれている。全世界でアンモニアは1億5000万トン年間生産され、80%は肥料になる。

人間の飢えはエネルギーではない。深刻な飢餓はタンパクの欠乏である。すなわち窒素供給減としての穀物、肉、魚、乳の不足。つまり何らかの形で窒素をタンパク質やその他の栄養素の形で摂取しなければ、栄養バランスが崩れ、血液中アルブミンが減少して浸透圧が保てなくなるなどの障害を起こす。
健康な人は平均して1日50gの窒素を尿から失うが、日本人は安い輸入品に依存して、この貴重な窒素を垂れ流し、ほぼすべてを社会に循環させていない。

日本人は約一億人であるから、一日50億グラムの窒素を垂れ流している。これは吸収率100%と仮定しても大豆換算、毎日83000トン必要としている。これが確保されなければエネルギーは足りていても栄養的に飢えて日本人の寿命は短くなる、というのが日本の条件。
そのため他の産業で頑張って、多くの食品を日本は輸入している。

窒素源としての輸入食品(家畜飼料も含め)が手に入らなくなったらどうなるのか。輸入穀物無しでは国内畜産生産は、ほぼ継続生産力ゼロであろう。肉からの栄養はあきらめたとして。

国産大豆は年間23万トンしかない。1日たったの630トン、1日供給窒素相当量は38トン。米はおよそ900万トン生産している(1日2500トン)が米に由来する1日供給窒素相当量は35トン。大豆と合計しても70トン。
1日に必要な窒素は老人や子供は割り引いて8割必要としてもざっと窒素5000トン。おおざっぱにみても主要な穀物による国産窒素供給量で100分の1余の窒素しか国内穀物で確保できていない。もし輸入ができなくなれば、あとは近海漁業に頼るしかない。クジラも含め日本の近海がいかに重要であるかがよくわかると思う。


2021年

日立造船やクボタは豚や人の排せつ物からリンを回収する事業を始める。リンは肥料に不可欠で、原料のリン鉱石の産出は中国などに偏る。中国は国内供給を優先して輸出を絞り、現在の肥料用リンの価格は2008年以来の高値圏にある。排せつ物から回収したリンは鉱石を肥料用に加工するよりコストが安く、先行する海外勢を追う。



つい50年ほど前まで、ニシンは食用よりも農業の窒素供給源だったことを思い出せば、日本が栄養的窒素供給源で自立(循環と生産のサイクルの確立)する事がいかに重要かという事がわかるだろう。

さらに長期的にはリンの回収方法が無いことが、人類の食生活の崩壊を招く。リン鉱石の発見は未知数だからいつまでとは言い切れないが、困難とその対抗対策は費用対効果に制限される。窒素よりもよほど深刻な資源問題。《日本のリン鉱石、リン酸肥料輸入先の中国である。世界の埋蔵量180億トンのうち66億トン(約37%)を保有する》:数字は谷口正次より(この著者の記事は引用する場合注意を要する事実だけを引用すべき)

 

リサイクルリン酸肥料の実現

 

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20億人分しかない天然窒素固定 (Okayama)
2011-01-25 18:12:18
全世界では、1974年のデータによると 世界の人口37億人の持つタンパク質は310万トンの窒素相当。今は人口60億人。キャパを超え増えすぎている。
これを維持,蓄えるためには年間窒素1520万トン相当のタンパク質を摂取する必要がある。その源を植物性,動物性と たどると,生物による固定窒素4400万トン(20億人分), 工業的固定窒素3900万トンとなっている。
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