今こそ読むべき 鈴木貫太郎傳
【稀少復刻版】鈴木貫太郎伝(上)―終戦に導いた宰相の伝記 (響林社文庫)
祖父・鈴木貫太郎 孫娘が見た、終戦首相の素顔 Kindle版
『この間に、後に有名になる出来事があった。 サンフランシスコでのことだ。地元の歓迎会が幾つもあり、司令官は何か話さなければならない。そこで次のようなスピーチをした。 「日本人を好戦国民であるかのように宣伝する者もあるが、これは日本の歴史を全然知らない無智の者でなければ、他に何等かの悪意を持つ者の言葉である。日本人ほど平和を愛好する民族は、世界の何処にもない。日本は三百年間、一兵も動かさずに平和を楽しんだのである。これが何よりの証拠ではないか。然し、日本人が最近外国との戦争において勇敢に戦ったことは、これまた確かなことである。この勇敢さを目して、好戦国民と評するなら、われわれは甘んじて好戦国民と言われても一向差し支えない。日本人は平和を愛好する国民であるから、外国から挑戦されても容易に起ち上がらないが、祖国の危急存亡の関頭に立たさるれば、敢然応戦することを辞するものではない。(中略) 近来、不幸にして米国においても、また日本においても日米戦争ということについて耳にする。然し、日米は戦ってはいけない。若し日米が戦い、日本の艦隊が破れるにしても、日本人は断じて降伏しない。なお陸上で飽くまでも戦う。日本本土を占領しようとするならば、六千万の陸兵を上陸させて、日本の六千万人と戦うほかないであろう。 米国が六千万人を喪って、日本一国を奪い取ったとしても、それがカリフォルニア一州だけのインテレストに相当するかどうか。また、日本の艦隊が勝ったとしても、米国民には米国魂がある。従って降伏しないであろう。日本軍はロッキー山までは占領することが出来るかも知れないが、これを越えてニューヨーク、ワシントンまでは攻めて行けない。これは日本の微力では到底考えられることではない。こう考えて来ると、日米相戦っても相互に人命と物資を徒らに消耗し、第三国を利益するだけで、日米両国は何の得る所もない。これほどばかげきったことはないのである。太平洋はその名の示す如く、太平でなければならぬ。平安の海でなければならぬ。この海は神がトレード(貿易)の為に置き給うもの、この海を万一軍隊輸送に使うようなことがあったなら日米両国とも覿面に天罰を受けるであろう」(『鈴木貫太郎傳』) このスピーチは大きな反響を呼んだ。 カリフォルニア州検事総長は、新聞一ページ大に「アドミラル・スズキの意見に大賛成だ」と日米戦争の愚を強調した論文を掲げた。また、日本人がアメリカ国籍を得ることの反対論が強くなり、アメリカの締め付けに悩む日本人移民には強い味方を得た感があって、大いに感謝された。 このスピーチは二十七年後、鈴木終戦内閣が発足して間もなくの国会演説で、再び引用されて物議をかもした。このことは後述する。』