シミニマム＆シンプルの原則で、思考を明確にしてみよう

「シンプルであることは、複雑であることより難しい。物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。だが、それだけの価値がある。」　スティーブ・ジョブス
参考　ケン・シーガル著　『Think Simple 　アップルを生みだす熱狂的哲学』　２０１２年　電子書籍版　訳者　高橋則明

スティーブ・ジョブスがアップルの社員に要求したビジネスを他の分野で真似ることはほとんど不可能だろう。しかしトコトン考えるということのヒントに、ミニマムで目標に近づくことを旨とするという心得は参考になる。目標があるのなら、そこにまっすぐに近づくにはどうしたらよいかデザイン（製品にかぎらず、事業の形）そのものから考える習慣はあらゆる方面のビジネスに役に立つと思う。

　但し、四半期の売上とか、商品棚の見栄えとかといった、あまりにも小さな、あるいは短期間の目標でミニマム＆シンプルの原則を適用することは考えものだ。短期的に再デザインができるほど普通の事業には自由度がない。

　この原則に熱狂するのなら、長期の目標あるいは、今の実力では出来っこなさそうな、できるだけ遠い目標を定めた方がいい。そこに向かってシンプルに段階を最小限に進むには今やっていることは安易に行き過ぎて、遠回りすぎてはないかどうかをよく考えてみよう。

　例えば、食品に添えられるエージレスのように、自分たちの商品がもっと社会で幅広く消費者に使用されるにはどういう商品がいいのか、これまで以上に前提を排除して思考を明瞭にした方がいい。
　すぐれた抗酸化性能というのは消費者には全く目にすることのできない性能であるし、世の中には既に代替もある。社会で幅広く使用される素材の目標としてはあまりに短期的、少数機会に偏りすぎている。抗酸化剤で貢献する機会はいまさら再デザインするほど、ビジネス世界に隙間はない。

むしろビジネスの再デザインが求められているのは工業だろう。それほど劇的な再デザインが可能な世界がナノテクノロジーの世界である。

　例えば、半導体を製造する工程を印刷のようなグラフェンベースの工程にすると、劇的にエネルギーと設備が削減できるし、消費者にとってガジェットは１ミリに満たない柔らかい本のページや折り紙みたいな形態が常識になる。紙に漉き込むことだってできる。消費電力が劇的に少なくなると、充電ケーブルなど必要なくなる。自前で光発電できるからだ。

　ここに書くのは夢物語ではない、思考実験である。しっかり思考を明瞭にさえしていれば、今どのような技術が足りないのかが明確になる。さらにここで、1985年のスティーブ・ジョブスに対するPlayboy誌のインタビューを紹介しておこう。1985年のジョブスはほとんど預言者のように未来を言い当てている。すでに再発明という言葉が使われていることに驚くことだろう。

『
Playboy：
コンピューター市場と同じく、自動車産業は日本企業に圧倒されようとしています。半導体業界では窮地に立たされるアメリカ企業の話をよく耳にしますが、Appleはどのようにして優位性を保つつもりですか？

Jobs：
日本は興味深い国です。ある人は「日本はコピーしている」と言いますが、私は日本人がやっていることは「再発明」だと考えています。既にある技術をよく理解したうえで、その「第2世代」バージョンを再発明してくるのです。この戦略は技術が安定したマーケット、たとえばオーディオ機器や自動車産業のような分野には有効なものですが、その再発明サイクルには数年の期間が必要とされるため、コンピューター産業のような動きの速いマーケットが相手の場合にはあまり効果がありません。
』