金も白金も下落している。白金は自動車産業の先行指標だからたぶん製造業は全般的に不況を前提として生産調整している。金は中国株式市場の下落から買いと売りの交錯。いずれにしても中国景気の不順というか架空相場の崩壊が世界の製造業を振り回している。杜子春洛陽西門の絶望を思い出す。
霧雨を窓から眺めていると、ギリシャが来月国民投票を実施するというニュース速報が流れた。週明けは株式暴落で始まるだろう。
『しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。さうすると人間は薄情なもので、昨日までは毎日来た友だちも、今日は門の前を通つてさへ、挨拶一つして行きません。ましてとうとう三年目の春、……杜子春が以前の通り、一文無しになつて見ると、広い洛陽の都の中にも、彼に宿を貸さうといふ家は、一軒もなくなつてしまひました。いや、宿を貸す所か、今では椀に一杯の水も、恵んでくれるものはないのです。 そこで彼は或日の夕方、もう一度あの洛陽の西の門の下へ行つて、ぼんやり空を眺めながら、途方に暮れて立つてゐました。するとやはり昔のやうに、片目眇の老人が、どこからか姿を現して、「お前は何を考へてゐるのだ。」と、声をかけるではありませんか。』
略、いろいろあって、略
『「何になつても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです。」 杜子春の声には今までにない晴れ晴れした調子が罩つてゐました。「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遇はないから。」 鉄冠子はかう言ふ内に、もう歩き出してゐましたが、急に又足を止めて、杜子春の方を振り返ると、「おお、幸、今思ひ出したが、おれは泰山の南の麓に一軒の家を持つてゐる。その家を畑ごとお前にやるから、早速行つて住まふが好い。今頃は丁度家のまはりに、桃の花が一面に咲いてゐるだらう。」と、さも愉快さうにつけ加へました。(大正九年六月)』
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