公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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書評 「西郷隆盛 天命の巻」海音寺潮五郎

2015-02-10 13:08:48 | 今読んでる本

オーラルケア関係で自治医大へー売店に置いてもらう事になりそう。海音寺潮五郎は一度も読んだことがなかった。出来事を並べる歴史教育は極力日本民族を意識させないが、愛国教育にはこういう小説を読むべきだろう。今であれば、ビジネススクールで教える期間指標と数値による典型的マネージメント方法論が朱子学。責任とリーダーシップから方法論を再構成して捉えるドラッカーの方法論が陽明学に相当する。


ちょっと長い引用してみます。「西郷隆盛 天命の巻」ー海音寺潮五郎ーより、

『ちょうど朱熹の二十から三十頃までの間に 、シナの北方におこった金という外国国家がシナ本土の王朝宋を圧迫して 、宋は皇帝を北地に連去られ 、年々多額の賠償を搾取され 、国は南方におしつめられ 、最も屈辱的な境遇に転落した 。民族精神をふるいおこし 、外力をはねのけ 、民族の独立をかちとるべき思想が 、シナには切実に必要となった 。朱熹はこの要求に応じて 、民族精神の横溢した史学を樹立した 。朱子の六 、七十年先輩に司馬光 (温公 )という人があり 、 「資治通鑑 」という史書をつくった 。シナの上古からのことを書いた史書だが 、二九四巻という大部なものなので 、朱熹はこれをダイジェストとして五九巻にし 、全篇を大義名分という思想で統一した 。大義名分の思想は 、国としては中国を外国より上位におき 、正当の王朝を覇者の王朝より上位におき 、上位の者が下位のものに君臨するのが正しい状態で 、その逆は不正にして悪であるという思想である 。朱子のこの学問は 、鎌倉時代に禅僧によって日本に輸入され 、南北朝の争乱の時代 、南朝方の人々をささえた思想はこれであった 。書物としては 、 「神皇正統記 」や 「太平記 」の中心思想がこれである 。両書とも 、朱子学の 「朱 」の字も書いてはいないが 、朱子学を知ってこの両書を読めば 、はっきりとそうであることがわかる 。日本における朱子学は一時衰微したが 、土佐と薩摩にはごく細々とした形ながら 、のこった 。江戸時代のはじめ 、藤原惺窩この人は外患誘致の先駆者でもある「朝鮮儒学者姜が朝鮮に帰国するときに「明と朝鮮の連合軍で日本を占領して欲しい」と願い出た『看羊録』)によって再輸入され 、ちょうど世が太平になり 、徳川家や諸大名が学問を奨励したので大へん盛んになり 、この時代におよんでいるのである 。明治以後 、日本では漢学がおとろえたので 、専門の学者は別として 、一般の人は学者といわれる人すら 、儒学にたいする知識がない 。朱子学は徳川幕府が特別に保護した学問であるというので 、朱子学は幕府政権擁護の学問であり 、ご用学問である 、これに反して 、維新志士の少なからぬ人 、たとえば本篇の主人公西郷隆盛 、たとえば吉田松陰 、たとえば高杉晋作等が 、王陽明の儒学に感銘を受けているところから 、陽明学こそ幕府をたおし 、日本に新時代をもたらした学問であるといっているが 、間違っている 。日本人に 「正当と不当 」 、 「王と覇 」とは厳格に区別すべきものであるということを教えて 、 「皇室尊重 、幕府賤視 」を教えたのは 、朱子学なのである 。こんな危険なものの内在している学問を 、なぜ幕府が奨励保護したかという疑問があるが 、江戸初期や江戸中期の幕府は気がつかなかったのである 。学問をすれば 、人品が高尚になり 、平和愛好の心になるというくらいのことしか考えなかったのである 。すべて 、こういう鋭いものは 、時勢が必要とする時代にならなければ 、発現して来ないものなのである 。いかにも 、前述した通り 、西郷や 、松陰や 、高杉らは陽明学の影響を強く受けてはいるが 、三人ともその教養の土台は朱子学である 。陽明学の影響は 、陽明の著書やその学派の人々の二 、三の著書を読んで受けたにすぎない 。陽明の学風は 、最も主観的で 、演繹的であるから 、行動の理論を形成するには便利である。維新運動がだんだん煮つまって来て 、 「尊王 」という単なる精神が 、 「勤王 」という行動に変らなければならなくなった時点には 、大へん便利であった 。だから 、陽明の説に強い感銘を受けたのである 。以上 、書いたことは余計なことのようだが 、これまでの人達の説くところが 、まるで五里霧中のように思われるので 、敢て書いた 。行動と思想との関係は 、大事なのである 。』
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