公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

切り取りダイジェストは再掲。新記事はたまに再開。裏表紙書きは過去記事の余白リサイクル。

『Whole Earth Discipline 』スチュアート・ブランド 仙中 紀 訳

2016-04-20 13:22:43 | 今読んでる本
地球の課題が解決不能になりつつあるのではないかと思い、スチュアート・ブランドの最近の考えを聞いてみたいと思った。どれほどの豊かさを望むのかによるが、エネルギーを化石燃料から自然エネルギーに変更しようと全地球的合意が得られたとしても、すでに物理的面積がないか、非常に高いペースでバイオ燃料製造施設を四半世紀にわたり造り続けなければならないらしい。しかもアフリカ大陸全部を使って。最後の培養プールが完成した頃には最初のプールが崩壊を始める。その総額は全世界のGDP一年分に相当する。



最初に二酸化炭素に警鐘を鳴らしたのは1958年のLaurance Rockefellerの運動がその嚆矢である。

このやたらと耳の尖った御仁のおかげでアメリカにおける環境運動に資金がつくようになった、キーリング曲線の生みの親。彼はベンチャーキャピタリストの嚆矢でもある。UFOにも興味があったらしい。晩年はオバマの支援者でもあった。ひょっとしたら、ハイブリッドかもしれない。スチュアート・ブランドの慧眼はワンダーフォーゲルとヒトラーのナチスドイツとグリーン派の共通点に気づいたという点にある。国境を跨ぐ最高の理由が自然保護と環境保全であった。


Laurance Spelman Rockefeller (May 26, 1910 – July 11, 2004)
Venture capitalist and environmentalist Laurance Rockefeller founded the American Conservation Association and put conservationism on the American agenda.


やはり強者が弱者から争奪する世界しか思い描けない。22世紀初めの地球に280億人のキャパはないだろう。明らかに人類は絶滅を意識し始めている。絶滅を遠ざけるために何をなすべきと考えるか?人口を減らすしかない。大量に人口を減らした伝説のナチスドイツでさえ1200万人。実際は不明。しかし手法は明らかで人類を二種類に分けて絶対に同じ社会に生存させてはいけない理由を宣伝する。宗教か人種か記号か。そういう世界は必ずやってくる。キツネ型とヤマアラシ型とでは、キツネ型の方が分析と環境選択に向いているが、政治的にはヤマアラシ型しか多数を占められない。だから地球上でキツネが司令官となるチャンスは少ない。結局絶滅の道を選ぶことになる。ロシアのプーチンはキツネ型リーダーである。プーチンが世界を指揮することなど誰も許さないだろう。テクノクラートは技術と効率で選択と結論を導こうとするが、必ずその変革によって取り残こされる非効率な少数者の、時には盗っ人猛々しいヤマアラシの言い分によって反論される。


長期世界エネルギーモデルとして、工学技術を詳細に扱っているDNE21(Dynamic New Earth21)モデルの非線形関数(省エネルギー関数、再生エネルギー供給関数)を線形化した LDNE モデルのエネルギーフローのような、複雑な地球規模のエネルギーモデルまではかけても誰がパイプラインのバルブを回すのか?結局、需要のトップダウンアプローチはヤマアラシ型の政治問題に帰着する。

今でも世界は、炭酸ガス濃度550ppm固定モデル(産業革命前の2 倍の濃度)なのか450ppm固定モデルなのかさえも国際的に決められない。石油は使われ続ける。

科学的合意のあるシミレーションでも22世紀初頭、トップダウンの石油消費量を決定できる政治状況を前提とすると、2000年比2倍、炭素換算44億トン2000年比64%の排出ーこのとき1500Gigaワットの軽水炉原発貢献ではウラン資源は21世紀中に枯渇するーを更に前提とした場合、どんな楽観的な予想でも正味排出炭素量は20Gtonを下回ることはない。

もっと重大なことはコストである。大気中炭素削減費用は多種ソフトエネルギー(炭酸ガス地中貯留廃棄をふくむ)の利用によりトン当たりの570ドル必要になる。どんなに楽観的な予想でも200億トン✕570ドル=11.4兆ドルのコストがかかる。これを450ppmで安定化することを目指した時には3.6倍のコストがかかるので41兆ドルのコストがかかる。リーマン・ショックで失われた株式資産がちょうどこの間の数字31兆ドルだ。毎年リーマン・ショック並のコスト負担、すなわち資産の定常的消滅(あるいは会計上の引当)として起きている経済活動主体(企業、政府、銀行、地方自治体)はプラス成長が成り立たない。人類の炭酸ガス増加環境からの脱出、2000年比2倍水準、これはすでに絵に描いた餅、政治スローガンである。そもそも炭酸ガスを減らすと地球が寒冷に戻るのかどうかという科学的保証もない。それではなぜ熱心に炭酸ガスを削減する政策を鼓吹するのか?その理由はこの膨大なコストにある。麻薬違法薬物市場でも6000億ドルに過ぎない。ロボット産業はまだ生まれていないが1兆ドルである。11兆ドルの市場投資機会は人類史上最大であり、この先に無いだろう。


環境奴隷となる大衆がコスト税(料金)負担するエコ経済が魅力的な補助金ビジネスとして浮かび上がってきているから彼らは目の色を変えている。特にアメリカは2005年の法整備以来環境が整ったからだ。本当の地球的課題などグリーンビジネスを旗印とする国際主義者にはどうでもいいことで、産業社会、情報社会投資も一巡して小さなものとなり、絶滅前の駆け込みに有利な富と有利な政治的支配層にとどまるための国際金融の業態シフト延命にすぎない。あるいは本気で1000人ほど火星に移り住む資金を集めたいのかもしれない。

以上の考察でもう人類と地球の関係性の運命は明らかだろう。人口を減らすことも、エネルギー消費を減らすことも、化石燃料依存からの脱出もできないという成長の煉獄に生き残りをかけた争奪戦争をするか、絶対専制による資源配分の強制をするか、その組み合わせ政策を選ぶか、この3つしか無い。
それまで、つまり核燃料資源の尽きる21世紀末までの間に、更に富を偏在させて、最終的に地球を脱出するために少数者が多数者の環境負荷コストを掠め取り続ける。そのための出発点が、今年55という数字を象徴的数字とするパリ条約調印だ。スチュアート・ブランドは以前とは違って、遺伝子組み換えや原子力エネルギーの利用に積極的に課題として取り組む価値があるとしている。緑の革命を単純に環境破壊が進んだとするグリーン派とは一線を画している。この人の真剣さは伝わるが、残念ながら、昨日のニュースを見ても中国鉄鋼業は米国の4倍の過剰生産設備をもち、設備廃棄どころか再び増産の傾向にある。経済活動の停滞を避けることのほうが全地球的課題よりも優先されるというのが、現実の姿だ。どの国の産業を滅亡させるかという絶滅スキームだけが政策の現実性を帯びている。

人類社会を二種類に分けても分けても逃れることができない煉獄が21世紀末に待っている。この煉獄は暑いとは限らない。温暖化と同じくらいの確率で寒冷化する可能性があり、私は一時的温暖化が過剰な蒸気を大気に満たして、降雪量が増えて地球の反射率が高まって起こる寒冷化リスクの方がより深刻で、現時点でもそうなる可能性が高いと思う。
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