嘘と報酬系はコインの裏表となって側坐核で結びつく傾向がわかっている。人間社会の昼間の闇切り取りダイジェスト 嘘は学問化できる、できない? - 公開メモ DXM 1977 に関わる脳生理として側坐核の役割は知っておいた方がいい。ドーパミンには側坐核、生体にとって良い行動(扁桃体が加点する)をプラス評価して学習・記憶させる作用があるが、他方でドーパミンは前頭前野では不安を感じさせる作用を持つ。
よくやる気の素とかやる気スイッチとかドーパミンは言われるが、生きるための基礎反応である情動が側坐核を経由しているからこのように言うだけであって、ドーパミンがやる気を支配しているのではなく、良い体験の記憶と学習(高度な意味の報酬)を経由して個人の行動選択に繋げている応援物質がドーパミンと思えば良い。嘘の創造の一部はドーパミンによって生じる前頭前野で高まる不安を打ち消すための自己防衛反応であろう。つまりやる気と虚言は裏腹の関係にある。
外部から注入された虚言である洗脳が容易に解けないのは嘘と報酬の関係を前頭葉が*報酬主張↓で深く結びつけてしまっているからだ。切り取りダイジェスト 報酬系の奥深さ 善に悪に自在也 - 公開メモ DXM 1977
正直な人とウソをつく人との間には脳の「側坐核(そくざかく)」という部分の活動に違いがあるという研究結果を、京都大学の研究グループが発表した。
京都大学の阿部修士特定准教授らは、28人のアメリカ人男女にコインの表裏を予想してもらい、予想が当たったと自己申告すれば金がもらえるというゲームを行いながら脳の活動を測定した。その結果、側坐核という部分が活発に活動する人ほどウソの申告をする割合が高いことが分かった。側坐核は報酬や快感など人間の欲求に反応する部分で、欲求が強い人ほどウソをつく可能性が高いことが証明されたという。
今回の実験結果は世界で初めて、側坐核の活動の個人差によって正直さがある程度決まることを示したものだという。
側坐核からは腹側淡蒼球(ventral pallidum)に投射する(GABA作動性出力)。その後、腹側淡蒼球からは視床の背内側(MD)核に投射し、視床背内側核は大脳新皮質の前頭前野に投射する。他に側坐核からの出力として、黒質、橋網様体(脚橋被蓋核など)への結合がある。
側坐核への主な入力として、前頭前野、扁桃体、海馬からのものや、扁桃体基底外側核のドーパミン細胞から中脳辺縁系を経て入力するもの、視床の髄板内核、正中核からの入力がある 。そのため、側坐核は皮質-線条体-視床-皮質回路の一部としてみなされることもある。
腹側被蓋野からのドーパミン性入力は側坐核の神経活動を調節すると考えられている。モルヒネなどは、腹側被蓋野でドーパミン神経を刺激し、側坐核へ投射する神経(A10神経)の末端からドーパミンの分泌を促し、シナプス間隙のドーパミンが増えることにより、シナプス後細胞が非生理的な興奮状態となって、モルヒネ摂取者は「何ものにも代えがたい幸福感」を味わい、依存のうち精神依存はこの機序で形成する。一方、嗜癖性の高い薬物でもコカインやアンフェタミンなどは側坐核において主にシナプス前細胞に作用する。
メチルフェニデートやコカインは、シナプス前細胞によるドーパミンの再取り込みを阻害して、ドーパミン濃度の上昇を来す機序による。
アンフェタミンやメタンフェタミンといったいわゆる覚醒剤は、ドーパミンの再取り込み経路から逆行性にシナプス前細胞に侵入し、ドーパミンの産生を亢進させるとともに、再取り込み経路の流れを逆転させ、そこからもシナプス間隙にドーパミンが分泌されるという非生理学的な振る舞いを起こさせる(無論、生理的な再取り込みは起こらない)。さらには不要なドーパミンを分解してドーパミンの作用の安定化に寄与するモノアミンオキシダーゼ(MAO)の働きを阻害する。これらの効果のため、ドーパミン量の調整機構が部分的に機能しなくなる。このように、ドーパミンを増加させることで嗜癖作用を有する。
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脳深部刺激療法のターゲットとして最もよく使われている領域が側坐核だということがそのスライドに示されていたからだ。鬱病治療でも、拒食症や病的肥満の治療でも、さらには強迫性障害やアルコール依存症やヘロイン依存症の治療でも、ターゲットとされているのはこの小さな脳領域だった。側坐核とは、ヒースが中隔野と呼んだ領域のちょうど真ん中に当たる部分である。
幸せとは何だろう。幸せな人生とは何だろう 「いったいいつも何がそんなに気に入らないの?」と私は子どもの頃、誕生日やクリスマス、あるいは何かうまくいかないことが起きた日などにしょっちゅう聞かれたものだった。実は、私は何かに不満を持っていたというよりは、満足感を覚えることができなかったのだった。自分で「これがほしい」と思って頼んでいたものをもらっても、必ずそれは私が想像していたものとは違っていた。まるで、アンデルセンの童話『雪の女王』に出てくる、悪魔の鏡のかけらが目に刺さったために何もかもが不完全で醜い姿に見えるようになってしまった少年カイのように、私は、何を見てもそこに粗を見つけてしまうのだった。
私がロバート・ヒースの物語に心惹かれる真の理由は、彼の研究の中心が快感や欲望だったからなのだろうか。彼の研究は人間の核心的部分に直結している。特定の脳領域を目的に応じてピンポイントで刺激できるとすれば、我々は根本的な問いに直面することになる。 幸せとは何だろう。幸せな人生とは何だろう。
快楽。この言葉には不思議な力がある。レッドカーペットを歩くときの感触にも似たこの言葉の響きは、心地よい余韻をあとに残す。エデンの園は、邪悪なヘビが知恵の木の実を差し出す以前にはヘドニアという名前だったのかもしれない。そして何より、快楽主義は我々現代人の生き方のモットーになった。人生で大切なのは、善良で役に立つ人間になることではない。何か特別な貢献をしたり何かを成し遂げたりすることでもない。人生で大切なのは、できるだけ楽しく暮らすことだ。もしもエピクロスが現代社会にタイムスリップしたら、自分の哲学が世界中で実践されていることに満足するのではないだろうか。
我々先進国の人間は、有名なマズローの「五段階欲求」(生理的欲求、安全の欲求、社会的所属の欲求、承認の欲求、自己実現の欲求)のうち、下部の何段階かはとうの昔に達成し、今や最上の段階の実現を目指している。「自己実現」、つまり自分の可能性のすべてを実現することが究極の関心事及び目標となった今、我々は幸福を絶対不可欠な付属品と見なし、パック詰めされたこぎれいな日用品のようにそれを要求するようになった。そして、幸福は、目前の欲望の充足とほとんどイコールになった。人生を最後の一滴まで楽しむことが理想とされ、楽しめていない状態、つまりポジティブでない状態はほとんど恥ずかしいことになった。我々はお互いに、笑顔とはじけるようなユーモアを期待している。ネガティブな人間は、社会に適応させなければならない反社会的存在なのだ。物質的な日常生活だけではポジティブになれないときには、我々は罪悪感を覚え、瞑想やマインドフルネスやヨガなど、気分を上げてくれそうなことなら何にでも手を出す。
同時に、喜びや快感を感じられない状態、つまり失快感症のほうも鬱病の増加に伴ってポピュラーな問題になった。さまざまな研究が、「一生のうちに鬱病を経験する人は人口の約四分の一に上る」と指摘している。そして、先進国ではその割合は増え続けている。鬱病治療は今や、脳深部刺激のショーウインドウであり、主戦場でもある。
人間が弄んではならない領域というものが存在する ヒースは、倫理的に許されない研究をおこなったとして名声を失った。だが、メイバーグによれば、それは、脳研究に対する二つの相容れない見解の対立と関係があったかもしれないという。「脳はあらゆる人間的なるものの源であり、あらゆる人間的なるものを理解するための鍵だ」と考える人たちがいるその一方で、「人間が弄んではならない領域というものが存在する」と考える人たちもいる。
ヘレン・メイバーグ自身、後者と論争になったことがある。彼女の画期的な論文が二〇〇五年に「ニューロン」誌上に発表され、彼女へのインタビュー記事が主要紙に掲載されると、ネット上には怒りの書き込みがあふれた。医者が最後の一線を踏み越えた! ロボトミーの再来だ! 「科学が新しい段階に到達するたび、こうした論争が起きます。それに、脳に関する研究と聞くと、それが能力増進のために利用されるのでは、とすぐに目くじらを立てる人たちがいるのです」 その言葉が、私に質問のきっかけをくれた。喜びとか快感、つまりヘドニアについて、メイバーグの考えを聞いておきたかった。
闇の脳科学 「完全な人間」をつくる 2020年10月20日
発行
著 者 ローンフランク
訳 者 赤根洋子
発行人 吉永龍太 発行所 株式会社文藝春秋 東京都千代田区紀尾井町3-23 郵便番号 102-8008 電話 03-3265-1211