褒められたことがない、ネグレクトされた人間はバカになる。そしてわずかな報酬で詐欺やゲームの罠から抜けられなくなる。
一般に興奮期待（予測）が行動に強く結びついた興奮予兆を与える。じらし、つまり期待があってもすぐに満たされないほど人間は『お金、食べ物、セックス、承認、新しい経験』に執着するので、支配される。
脳の報酬系だけで言えばスマホ脳は新しいものではない。パチンコ脳という先例がある。
それらの一時的報酬興奮以上に、なにも起こっていない状態、興奮に期待できることに前頭葉が気づく興奮の前兆は何ものにも代え難い中毒性がある。これはホモ・サピエンスの特徴である。詐欺師は既存の執着する心を利用して仲間を破産させるが、科学者やベンチャーは後者の中毒性を利用して仲間を集める。科学技術やイノベーションの世界で期待できることに気づく興奮は何ものにも代え難い。paypalのようなベンチャービジネスはその最たるものの一つであろう。
コロンブス時代に西廻り航路でインドに行ける期待に気づいた人はどんなに興奮したことだろう。そういう成果報酬が実現していない方が人間を虜にする。
「かもしれない」が大好きな脳 報酬システムを激しく作動させるのは、お金、食べ物、セックス、承認、新しい経験のいずれでもなく、それに対する期待だ。何かが起こるかもという期待以上に、報酬中枢を駆り立てるものはない。１９３０年代の研究では、レバーを押すと餌が出てくるようにした実験で、ネズミたちは時々しか餌が出てこないようにしたほうがレバーを押す回数が多かった。いちばん熱心にレバーを押したのは、餌が出てくる確率が３～７割のときだった。
1930年代の研究は少し古いと思うが、ドーパミンはもう少し複雑な物質だ。別な研究ではドーパミンは報酬化学物質セロトニンやエンドルフィンを受け取る以前に最も高い放出のタイミングがやってくるのだそうだ。人間は性質としてその期待感だけで全神経がより優良で多くの餌の取得、生殖の成功体験、セックス、有名人のいいね、宗教上のグルのお褒め、無謀な誰もやっていない冒険へと向かう。
逆にドーパミン無縁の長期飼育では、ネズミはドーパミン機会の中毒、判断力の低下に陥りやすい。幼児期のネグレクトは集中力と判断力の低下の原因になる。
私を含め人間は お金、食べ物、セックス、承認、新しい経験の全てに弱いが、より効果的には実物ではなく、それらのリアルな取得期待、ハードルの一時的低下、思わせぶり、示唆、成功の表象や資格の取得に最も弱い。
私はオンラインショッピングの便利さを否定しないが、長く夢中になるものなしにただ真面目に生きてきた人は現金では得られない魅力、目的もなく期待感をもってショッピングページを開く自分の行動に注意したほうがいい。他方で現金は実際に支出する時に痛みに近い苦痛を脳が味わうという研究がある。お金を失いたくなければ、買った宝くじや株式に対する期待感を忘れて生きるべきでしょう。
しかしなかなかお金で得られない承認や地位、新しい経験を取得するのは高度に難しい（新しい経験が地位取得の入り口に用意される学歴資格システムや秘密結社カバールもある意味こうした欲望の弱みを握る詐欺集団である）。ここに詐欺師の大物狙いがある。なぜなら詐欺師はお金を持っている人を騙すのであるから。
もう一つ注意残余という脳のドーパミン利用の性質がある。これは動物本能でいまさら変更のしようがないので、スマホ脳であればあるほど、注意が途切れる。あるいは前のタスクが気になってしょうがない。マルチタスクで仕事をしているときにちょっと気持ちがいいのがこれだ。本来、伝統的熟練のマルチタスクは認知から運動まで統合されているが、スマホ脳のマルチタスクは非効率的な分散（限られた時間の細分化利用）だから人間の生きる力の浪費、すなわち有限の認知可能資源の浪費に終始する。
イーベイは現金では得られないものを提供してくれた。病みつきになりそうなオンラインオークションのスリル感。ギャンブルのときに湧き出る多幸感。それに比べて現金は退屈だ。オンラインショッピングは、オンライン賭博と同時期の２０００年代のはじめに急拡大した。どちらもはじめるとやめられない中毒性があり、インターネットのおかげでだれにも知られずに、閉じられたカーテンの陰でそれに没頭できるようになった。
オンラインショッピングは「瞬間的な満足を与えてくれる駄菓子屋だ」、と言うのは、社会人類学者のベンジャミン・バーバーだ。それは大人を子供に引き戻し、消費者を幼児化させた。（「世界を変えた14の密約」より）
