歯の喪失や歯周病は、アルツハイマー病のリスクを増加させる可能性が示されて おり、その詳細な影響を解明することは極めて重要です。脳の記憶中枢である「海馬」 は、アルツハイマー病患者で早期に萎縮することから、初期認知症の画像バイオマ ーカーとして利用されており、アルツハイマー病の多くのリスク因子は海馬の萎縮速 度と関連することが報告されています。しかし、動物実験では歯の喪失や歯周病が海 馬の神経変性を引き起こすことが報告されていますが、ヒトを対象とした研究では、 歯数や歯周病と海馬の萎縮速度との間に明確な関連が確認されていませんでした。
2023/07/08
今回の取り組み
東北大学病院口腔機能回復科(東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野)の 山口哲史(やまぐち さとし)講師、東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野の服 部佳功(はっとり よしのり)教授、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教 室の村上任尚(むらかみ たかひさ)助教、帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座 の大久保孝義(おおくぼ たかよし)主任教授らの研究グループは、55 歳以上の地域 住民を対象とした疫学研究(大迫研究)において、2009 年 4 月から 2017 年の間に 4 年間隔で脳 MRI を 2 回以上撮像した 172 名のデータを抽出し、ベースライン時の 歯数や歯周病と、その後 4 年間の海馬の萎縮速度との関連を解析しました。共変量 には、年齢、性別、および基礎疾患等を用いることで、これらの影響を除外しました。 さらに、同じ 4 年間の認知機能検査の点数変化と歯数や歯周病との関連についても、 同様の解析を行いました。
その結果、歯の数と歯周病をそれぞれ単独で取り扱った場合は海馬の萎縮速度と の関連は認められませんでした。しかし、歯の数と歯周病の相互関連を考慮した解析 では、軽度の歯周病では歯の数が少ないほど左海馬の萎縮速度が速く、重度の歯 周病では歯の数が多いほど左海馬の萎縮速度が速いことが明らかになりました (図)。具体的には、歯 1 本あたりの歯周病の指標(大きい程重度)である平均歯周ポ ケットの深さが小さい場合(-1 標準偏差:2.05mm)、歯が 1 本少ないと左海馬の萎 縮速度は約 0.9 歳分速くなり、平均歯周ポケットの深さが大きい場合(+1 標準偏差: 3.71mm)、歯が 1 本多いと左海馬の萎縮速度は約 1.3 歳分速くなりました。
同様に、歯周病の程度によって歯の数との関連が逆転する現象は認知機能の変 化でも認められ、歯周病が軽度の場合には、歯の数が少ないほど認知機能が低下 するのに対して、歯周病が重度になると、歯の数が多いほど認知機能が低下する傾 向があることを明らかにしました。
F. nucleatumは、健常人でも多くの人が口腔内に保有している常在菌の一種で、歯周病の増悪化にも関与することが報告されています。本研究で、口腔内と大腸癌組織における本菌の菌株が一致したことにより、口腔内のF. nucleatumが大腸癌組織に移行/ 感染していることが示されました。但し、現時点では詳細な移行・感染ルートなど不明な点もあり、これらの解明は今後の検討課題です。》
フソバクテリウム属(Fusobacterium)は、バクテロイデス属と似た嫌気性のグラム陰性菌である。個々の細胞は棒状の桿菌で、端は尖っている[1]。歯周病やレミエール症候群、局所的な皮膚潰瘍等の人間の病気に関わっている。古い文献では、ヒトの中咽頭の常在菌とされているが、現在は常に病原菌として扱われている[2]。2011年、この菌が大腸癌の細胞で繁殖していることが発見され、また潰瘍性大腸炎ともしばしば関連付けられている[3]が、この菌が実際にこれらの病気の発症と関わっているのか、あるいは単にこれらの病気が作る環境で繁殖するだけなのかは分かっていない[4]。
^ Madigan M; Martinko J (editors). (2005). Brock Biology of Microorganisms (11th ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-144329-1.
^ Aliyu SH, Marriott RK, Curran MD, et al. (2004). “Real-time PCR investigation into the importance of Fusobacterium necrophorum as a cause of acute pharyngitis in general practice”. J Med Microbiol 53 (Pt 10): 1029-35. doi:10.1099/jmm.0.45648-0. PMID 15358827.
^ 大草敏史、Fusobacterium と潰瘍性大腸炎,大腸癌 腸内細菌学雑誌 Vol.27 (2013) No.3 p.169-179, doi:10.11209/jim.27.169
^ Alice Park (2011年10月18日). “A Surprising Link Between Bacteria and Colon Cancer”. Time.com 2011年10月18日閲覧。
^ Donald Kaye, William Kobasa, Karen Kaye. (1980). "Susceptibilities of anaerobic bacteria to cefoperazone and other antibiotics". Antimicrobial Agents and Chemotherapy, June 1980, pp. 957-960.
【背景】
Fusobacterium nucleatumは口腔に常在するグラム陰性嫌気性菌であり、歯周病をはじめ各種感染症の原因となるほか、近年、大腸がんとの関連が指摘されてきた。Dana-Farber Cancer InstituteのBullmanらは、原発性大腸がんと肝転移腫瘍における微生物叢を検討し、さらにヒト原発性大腸がん異種移植片マウスにおけるFusobacteriumの働きを評価した。
【結論】
大腸がんにおけるFusobacteriumおよびその関連微生物Bacteroides・Selenomonas・Prevotellaなどのコロニー形成は、遠隔転移でも維持され、原発腫瘍との恒常性が確認された。マウス異種移植片では、Fusobacteriumと関連微生物が継代培養の過程で維持されることが示された。さらにこのマウスにメトロニダゾールを投与すると、Fusobacterium量が減少し、がん細胞・腫瘍の増殖が抑制された。
【評価】
2011年に大腸がん患者の大腸組織からフソバクテリウムが多く検出されることが明らかにされて以降、多くの研究が行われているホットなトピックであるが、この研究はフソバクテリウムが単なるバイスタンダーではなく、がんの増殖を実際に媒介する可能性を示した。著者らは、抗菌薬による大腸がん治療の可能性も示唆している。
ということです。感染ルートには血行性も考えられますがそれではなぜ大腸にホーミングするのか。
次は多糖類 グルコマンナンによる大腸炎
Crohn’s disease is a chronic condition that causes inflammation and ulcers in the intestine. The most common symptoms are cramping, belly pain, diarrhea, fever, and weight loss. Some people have severe flare-ups of disease with crippling pain. Treatment options include antibiotics, steroids, and other medicines. Eventually, surgery may be needed to remove diseased areas of the intestine.
Crohn’s disease is caused by something unknown that triggers the immune system to mistakenly attack the intestine. The immune system’s response causes inflammation, leading to symptoms of Crohn’s disease. Previous studies suggest that certain gut microbes may play a role in the disease. Other potential factors include a family history of Crohn’s disease and a diet high in fat.
Electron micrograph of Ruminococcus gnavus
Scientists may have discovered why Ruminococcus gnavus, shown here, has been linked to flare-ups of Crohn’s disease. Susanna M. Hamilton, Broad Communications; Matthew Henke
Experts think microbes may be important in the immune response because certain bacteria, such as Ruminococcus gnavus, are found in higher proportions in people with the disease than without. R. gnavus can become the most common species of bacteria in the gut when the disease flares up. Plus, R. gnavus lives in the mucus layer of the intestine, where the immune system may be more likely to react to it.
To investigate the role of R. gnavus in Crohn’s disease, a team of scientists led by Drs. Jon Clardy and Matthew Henke of Harvard Medical School tested whether the microbe could trigger an immune reaction. The work was funded in part by NIH’s National Center for Complementary and Integrative Health (NCCIH) and National Institute of General Medical Sciences (NIGMS). Results were published on June 10, 2019, in the Proceedings of the National Academy of Sciences.
The researchers grew R. gnavus in a special broth and tested the mixture of molecules that the bacteria made for activity. To do this, they used mouse immune cells known as dendritic cells. The team found that the mixture could stimulate dendritic cells to produce an inflammatory molecule called TNF-alpha.
The team then isolated and purified the molecule responsible for this immune cell activation. The molecule is a type of glucorhamnan, a polysaccharide (large sugar molecule) made up of the sugars glucose and rhamnose. The more glucorhamnan that mouse dendritic cells were given, the more TNF-alpha the cells made.
Experiments using dendritic cells from genetically modified mice showed that the glucorhamnan worked via a protein called toll-like receptor 4, or TLR4. The team was also able to pinpoint the gene cluster most likely responsible for making the glucorhamnan.
Together, these findings suggest that Crohn’s disease may be triggered by a glucorhamnan made by the gut microbe R. gnavus, which then stimulates dendritic cells to make TNF-alpha. More research is needed to confirm that this glucorhamnan is found in bacteria from people with Crohn’s disease.
“This is a distinct molecule that represents the potential link between gut microbes and an inflammatory disease,” Henke says. “If we can track a single patient and see that the genes for this polysaccharide become expressed before disease symptoms get worse, that’s really powerful.”
—by Geri Piazza
、がん組織においてp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1の発現ががん細胞以外の細胞で観察されることを見出し、その細胞がmyeloid-derived suppressor cell (MDSC、※1)であること、p16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1はCDKによる転写因子SMAD3の抑制を解除することでケモカインレセプターCX3CR1の発現を促し、monocytic (Mo-) MDSCのがん組織への浸潤を助けることを示した(図1)。MDSCは発がんなどにより誘導される免疫抑制細胞であり、がん細胞に対する免疫応答を抑制することでがんの進展を加速させる。p16Ink4a/p21Cip1/Waf1二重欠損マウスやCDK 阻害剤を用いて、MDSCにおけるp16Ink4a/p21Cip1/Waf1のシグナルはがんの進展を促進することを明らかにした(図2)。
本研究では、がん抑制因子と考えられてきたp16Ink4aおよびp21Cip1/Waf1は上記の機構を介して 生体内でのがんの進展を亢進することを示した点、CX3CR1の阻害によるMo-MDSCの遊走能の抑制が治療効果を示唆した点で、がん治療に新しい視点をもたらした。
こういう研究もある
理化学研究所(理研)生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの宮内栄治研究員と大野博司チームリーダー(神奈川県立産業技術総合研究所プロジェクトリーダー、横浜市立大学大学院生命医科学研究科大学院客員教授)らの共同研究グループは、腸内細菌が自己免疫性[1]の中枢神経系炎症である多発性硬化症の発症や進行を促進する仕組みを発見しました。
本研究成果は、小腸細菌叢を制御することが多発性硬化症の発症や進行の緩和に寄与する可能性を示しており、多発性硬化症の新たな予防・治療法の開発につながると期待できます。
これまで、多発性硬化症患者の腸内細菌叢解析や多発性硬化症動物モデルを用いた研究から、中枢神経系の炎症に腸内細菌が大きく関与していると考えられていましたが、その作用機序は分かっていませんでした。
今回、共同研究グループは多発性硬化症のモデルマウスを用い、自己応答性T細胞[2]が小腸常在菌によって活性化され、それにより中枢神経系の自己免疫性炎症が増悪することを見いだしました。多発性硬化症は、神経軸索を覆うミエリン(髄鞘)に特異的なT細胞によって引き起こされると考えられています。今回の研究により、腸内細菌の一つであるLactobacillus reuteri[3]がミエリン特異的T細胞と交差反応[4]することでT細胞の増殖を促進し、Erysipelotrichaceae科[5]の菌がこのT細胞の病原性を高めることが明らかになりました。これら作用の異なる二つの菌が、相乗的に中枢神経系の炎症を増悪すると考えられます。
本研究は、科学雑誌『Nature』のオンライン版(8月26日付:日本時間8月27日)に掲載されます。