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オートバイで旅して観たモノの記録

 Ôtobai de tabi site mita mono no kiroku.

八重谷湧水

2021年09月25日 | 紀伊半島


 三重県は大紀町,阿曽の町並みを駆け抜け,八重谷山方面へ向かうと,湧水の案内がある.人里離れた山の麓に湧き水があるなんて,とても珍しいと思う.付近には,風穴という小さな鍾乳洞もあり,神秘的な雰囲気に包まれている.



 湧き水は,村道から160メートルほど進んだ山の中にあるらしい.奥河内川に架かった木造の橋を渡って,山の中へ入っていく.前日まで降っていた大雨で,水量がとても多い状態だ.



 一歩,山の中へ足を踏み入れると,急に辺りは暗くなり,涼しい風が吹き抜けてくる.そして,湧き水から流れてくる水が川のようになって,怒涛の勢いで流れている.水の流れる音が大きく,それ以外の音は何も聞こえてこない.



 湧水までは水の流れに沿って,木製の遊歩道が整備されている.特に先を急ぐ必要もないので,ゆっくりと辺りを散策しながら進んでいくことにした.所々に差し込んでくる木漏れ日が,とても気持ちよかった.



 それにしても,水量がすごく多い.前日まで降っていた大雨の影響が大きいとはいえ,湧き水とは程遠いイメージだ.どんな感じで水が湧き出ているのか,まったく想像つかない.



 山間部に降った雨が地中にしみこんで,そう深くないところで,大量の地下水として流れているのは紛れもない事実だ.山自体が大量の水を蓄えた大きなダムと言っても,差し支えないのかもしれない.



 黙々と写真を撮っていると,ひとりの青年が後からやってきた.水の音以外は何も聞こえないし,まさかこのような場所で人に出会うとは思っていなかったので,びくっと驚いてしまった.お互いに軽く挨拶すると,青年は湧き水の方へ颯爽と向かっていった.



 遊歩道を歩いて,100メートル以上は過ぎたと思う.湧き水の方に近づくにつれて,水の音もさらに増していく.そして,この辺りから遊歩道が水没し始める.靴が濡れてしまわないよう,斜面の方に迂回しながら進んでいく.



 そして,ついに湧き水の元へたどり着く.湧き水の近くには,くたびれた看板が立っている.この八重谷山は石灰岩で覆われており,周辺には鍾乳洞がいくつか点在するそうだ.また,湧き水口の水温は常に15℃で,四季を通して変わることがないという.



 そんなミステリアスな八重谷の湧き水口からは,怒涛の勢いで水が溢れ出していた.溢れ出すと言うよりも,水が噴出していると言った方が適切かもしれない.湧き水の景観は,全くもって予想外だった.



 地下水が地表に向かって,まさにこの場所から噴出しているといった感じだ.そして,吸い込まれてしまいそうな不思議な感じがした.無尽蔵に勢いよく出てくる水をしばらくの間,無心になって見つめ続けるのだった.



 よく地球は水の惑星と言われるが,八重谷湧水は地球の脈拍を肌で感じられる神秘的な場所だった.


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