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前鬼林道起点へと辿り着き,ここからは,徒歩で前鬼集落を目指していくことになる.陽の当たらない寂しい感じのする道を黙々と歩いて行く.道は崖伝いとなっているが,その眼下には彩り豊かな木々が,陽に照らされて美しく輝いていた.歩いてしばらくすると,軽トラとその持ち主である自分の両親と同じくらいの年代のご夫婦が,車から降りて辺りを散策していた.
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お父さんの方は,仙人のような立派な白いあごひげを蓄えており,挨拶すると前鬼集落の歴史などについて丁寧に教えて下さった.道中に遭遇した二ホンジカの雄姿をカメラのディスプレイ越しから見せると,大変喜んでくれた.お母さんの方からは,サンドイッチの差し入れを頂いた.お二人は,前鬼集落・五鬼助の末裔の方と知り合いであるらしく,その方に会いに行くということだった.
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ご夫婦にお礼を言って,一足先に前鬼集落へと向かって進んで行く.道中,差し入れで頂いたサンドイッチを頬張り,気力・体力共にみるみるうちに回復していくようだった.おかげで,前鬼集落まで続くゆるい傾斜の上り坂も難なくクリアすることができた.そして,人里離れた山奥に忽然と建屋が現われた.五つあった内の宿坊で,現在でもなお存続中の小仲坊だ.
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宿坊以外にも五鬼助の末裔の方の住居など含めて,何件かの建屋があった.そして,石垣はあるが,更地となっている場所もあった.おそらくは,かつて存在した宿坊の跡地なのだろう.ここで先ほど出会ったご夫婦が軽トラでやってきた.自分の方が早く着いていたので,歩くのが早いねと声をかけて頂いた.千尋滝に始まって,楯ヶ崎などを歩いた効果が,出始めたのかもしれない.
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ご夫婦は,五鬼助の末裔の方との会話で忙しい様子だった.その傍ら,自分の方はこの集落を丹念に見て回ることができた.集落にはお堂があって,修験道開祖の役行者,そして前鬼・後鬼の夫婦を祀ってあるという.1300年の間,このお堂の法灯が今も護られ続けているのだ.
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そして,この集落から修験道の道が,さらに山奥へと続いている.今でもこの宿坊は,多くの現役の山伏たちに宿を提供しているそうだ.一般人でも宿泊することができるようだ.
昔話の様だけれど,この様な秘境の地が実在していることに,驚きと共に喜びを感じずにはいられなかった.
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まだまだ自分の知らない土地がたくさんある.そう思うだけで,オートバイでの旅もまんざら捨てたものではないと思うのだった.前鬼集落を後にして,国道169号線の前鬼橋が見えるところまで,無事に戻ってくることができた.ここで,クラクションを鳴らしながら,颯爽と去っていく軽トラックが一台通り過ぎた.前鬼の里で出会ったご夫婦だ.ご夫婦に感謝の念を込めて,ヘルメット越しに会釈をした.なんとも言えぬ達成感に包まれながら,今宵のキャンプ地へとオートバイを走らせるのだった.