
尾鷲側から馬越峠道を歩き,ほどよい疲労感を持って,無事に峠までたどりつく.休憩もそこそこに今回の目的である天狗倉山(てんぐらやま)を目指して,馬越峠から山道をさらに登っていく.

馬越峠から序盤の道は,ゆるやかな勾配の道が続く.ところが,歩いていくにつれて,徐々に勾配が急になってくる.石畳が整備された馬越峠道と違って,天狗倉山への道は本格的な登山道といった形だ.

時刻は朝早いとはいえ,首筋に汗がじんわりと流れてくる.ポケットに忍ばせてきたタオルハンカチで汗をぬぐいつつ,両手を腕まくりして,目の前に立ちはだかる階段のような登り道を息を切らしながら進んでいく.

基本的にいつもはカメラを片手に進んで行くのだけれど,今回は両手がいつでも自由が効くような形になっていないと危ないほどの斜度,そしてすべりやすい道になっているため,カメラをしまい込んで這うようにして登っていく.すると,頭上に信じられないほどの巨大な岩塊が現れる.

巨岩のまわりを迂回しながら登っていくと,大きな一枚岩の真後ろに出る.どうやら,ようやく天狗倉山の山頂にたどり着いたようだ.山頂は大きな一枚岩があり,そのまわりが岩場になっている.山頂に似つかわしくない光景に思わず,ため息が出る.まさに圧巻の一言に尽きると思う.

そして,この一枚岩には,ご丁寧に鋼製の梯子が掛けられている.なぜなら,この岩の上が天狗倉山の山頂だからだ.標高は522メートルになる.梯子の高さは5メートルくらいだろうか.梯子を下りることを考えると,登るのをためらいたくなる気持ちがないでもない.

とはいえ,せっかくここまで来たわけだから,後先考えずにえいやで梯子を一気に登ってしまうことにした.梯子を登った先には,想定外の天空の世界が広がっていた.尾鷲市街と背後に広がる紀伊山地とを手に取るように一望することができた.

この場所に立ってみると,人間のスケールがいかに小さなものかと思い知る.それなのに,われわれは日々,些細なことに不満を抱きながら暮らしている.きっと,この岩場に天狗様が腰掛けて,人間の品定めをしていることだろう.今の自分は不合格のレッテルを張られているかもしれない.現状に満足せず,もっと頑張らなければならない.そんなことを思わせてくれる天狗倉山の山頂だった.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます