ほんとうの海を見せてあげよう
父に手を引かれ
はじめて海を見た朝
驚く僕の小さな胸から
羽ばたく音がして
鳥が空に
白い軌跡を描いたのだった
水平線の向こうの
見えない岸辺の方へ
これが海だよ
果てしのない美しさに
少し怖くなって父の顔を見上げた
僕はこの海を渡りきれるだろうか
※
もう一度一緒に飛ぼうよ
ようやく同じくらいの大きさになった翼を
動かなくなった父の翼に重ね
蘇生のため一夜風を送り続けたが
一筋の涙を落として
父が最後に見たものは
見えない岸辺ではなかったか
僕に息子はできなかった
それでも海を感じると
あの朝の白い羽音の
いのちの列が聞こえてくるのだ
今、真新しい翼が答えている
これが海だね
(第16回伊東静雄賞・佳作に選んでいただきましたので、再録します。)
父に手を引かれ
はじめて海を見た朝
驚く僕の小さな胸から
羽ばたく音がして
鳥が空に
白い軌跡を描いたのだった
水平線の向こうの
見えない岸辺の方へ
これが海だよ
果てしのない美しさに
少し怖くなって父の顔を見上げた
僕はこの海を渡りきれるだろうか
※
もう一度一緒に飛ぼうよ
ようやく同じくらいの大きさになった翼を
動かなくなった父の翼に重ね
蘇生のため一夜風を送り続けたが
一筋の涙を落として
父が最後に見たものは
見えない岸辺ではなかったか
僕に息子はできなかった
それでも海を感じると
あの朝の白い羽音の
いのちの列が聞こえてくるのだ
今、真新しい翼が答えている
これが海だね
(第16回伊東静雄賞・佳作に選んでいただきましたので、再録します。)