尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

見えない岸辺

2005年11月11日 11時43分58秒 | 自選詩集
ほんとうの海を見せてあげよう

父に手を引かれ
はじめて海を見た朝
驚く僕の小さな胸から
羽ばたく音がして
鳥が空に
白い軌跡を描いたのだった
水平線の向こうの
見えない岸辺の方へ

これが海だよ

果てしのない美しさに
少し怖くなって父の顔を見上げた

僕はこの海を渡りきれるだろうか

 ※

もう一度一緒に飛ぼうよ

ようやく同じくらいの大きさになった翼を
動かなくなった父の翼に重ね
蘇生のため一夜風を送り続けたが
一筋の涙を落として
父が最後に見たものは
見えない岸辺ではなかったか

僕に息子はできなかった
それでも海を感じると
あの朝の白い羽音の
いのちの列が聞こえてくるのだ

今、真新しい翼が答えている
これが海だね


 (第16回伊東静雄賞・佳作に選んでいただきましたので、再録します。)



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