尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

そんな夜

2005年11月15日 14時47分04秒 | ライトバース集

真っ暗な部屋のなかに
閉じこめられたひとつの音符が
小首をかしげて
なつかしいリズムを聞いている
指揮者もなしに
部屋の空気がわずか1ミリ
震えるだけのリズム
…そんな夜

真っ暗な部屋のなかで
ひとつ鏡が
もう
なにも映さないと
かたくなに決意している
この部屋の沈黙のほか
なにも映さないと
…そんな夜

真っ暗な部屋のなかで
ひとつバラが
夢を見ている
紅いバラであることの
ひたむきな
一本の夢
…そんな夜

そんな夜でした
扉をあけて
まばゆいあなたが
わたしを抱いたのは



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スーパーマン

2005年11月15日 14時11分30秒 | 少年詩集
一仕事終えて
筋肉の固まりは
マントを脱いで
ロゴのあるシャツを脱いで
最後にパンツを脱いで
真っ裸で
ベッドに横たわり
力を抜いた

しかし
言葉は脱げなかった
筋肉から言葉は
抜けなかった
夜中、マントをつけて
パンツをはいた言葉達が
英雄の廻りを
飛び回った

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こける

2005年11月15日 14時04分36秒 | 短詩集

夢の中で
こける
立ち上がるまでもなく
その低い位置から
またこける
こけている
こけ続ける
無限に低くなって
こける
点になっても
こける


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2005年11月15日 13時48分38秒 | 自選詩集
誰からも見えない
寂しい駅で
わたしは
あなたを
百年待っていた

雲が飛びかい
明けたり暮れたりを
激しく繰り返す
空をみあげては今さら
やあ、待たせたなって
とんまなあなたが来るよりも
願ってしまった
むしろすべて
滅んでしまった方がよいと

今では
わたしも見えなくなって
時刻表の失われた駅では
待つという透明な行為だけが
待っている

あなたの
うわさしをながら
一万年

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雨脚(あまあし)

2005年11月15日 00時03分17秒 | 詩の習作

無言電話が幾日かつづいた
深夜の雨音のむこうに
見えざるものの息がきこえた
ふくらんだりちいさくなったり
を繰りかえす
息を背景に白黒の
雨脚が見えるようであった

受話器を下ろすと
その夜は重ねてかかてこなかったので
迷惑という自分の凡庸な反応よりも
彼あるいは彼女の礼儀から
悪質ではないと判断していた
あまり肺活量のない息の背中には
もしかしたら
羽根さえはえているかもしれない

そんな油断から
誰ですか?
と僕はきいた
雨音だけがその問いを
聞いていた
やっぱり、神様ですか?
ときくと
雨音が1オクターブ高くなって
切れた
つまらない人間の
哀しい質問だった
神様はもう
電話をしない

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