小林真 ブログ―カロンタンのいない部屋から since 2006

2006年開設の雑記ブログを2022年1月に市議当選でタイトル更新しました。カロンタンは40歳の時に飼い始めたねこです

むさしのあるきめでつ

2007-03-29 13:32:16 | 身のまわり
曇り空の火曜27日、打合せのため築地へ。
うっかり寝坊して遅れて申し訳なかったが、今までの確認やら新たな仕事やらで2時間以上話し、よく仕事もらうこの事務所に「ごきげんよう」。夕方5時頃自由になって、そういえば年賀状にこっちに来るなら連絡しろとあった大学時代の友人にメール。しかし身動き取れないらしく、それならと東京駅から赤い電車で、地上で一番好きな飲食店、三鷹・江ぐちに向かう。

……「ごちそうさまでした」、ガララ、倍音多い声の「へいまいど」。
ビール中瓶+チャシュー+少しディレイして竹の子もやしそばからだをうずめる20分の悦楽。今日は少し麺固くて、チャシュー脂肪多目だったななどと幸せな感想を抱きつつ夕闇の外に出、好きだった古本屋がなくなって再開発された、玉川上水寄り一角に初めて近づく。
巨きな再開発型ビルの一階にも、少し場違いな喫茶店スタイルの店でたった一人の客とカウンターの向こうが笑い語っているのを見て、ひょっとしてあれは、一度も入ったことのなかった古本屋角の店なのかなと少し安堵しながら、井の頭公園につながる玉川上水沿いの通りに目をやると、桜が少し開き出したばかり。学生の頃、酔っ払ってもそうでなくても、何度も吉祥寺から歩いたこの道を、反対側から歩いてみようと思った。

桜は花が咲いるのはもちろんだけど、葉でも蕾でも裸でも、その枝振りの奔放さが羨ましくて、同時にはしたない。特にこうした川沿いの樹は重心もままならないから、妖怪のように手を伸ばして対応したものが多く、いってみれば成瀬『浮雲』の東南アジアセットのように、現実感のなさがおどろおどろしくまた愛らしい。
土手のバイプレイヤーたちも宵闇に光る。あっちは黄色いヤマブキ、この白いのはサクラソウだっけ。二十年前はこんなにこういう植物があっただろうか。
武蔵野あたりの小さな緑は、地方のお座なりなそれに比べ、意外に手がかけられている。こうした小さな花々も、時間をかけて根づかされたものなのかもしれない。そういえば道の両側に目をやると、歩道は整備されているし、家々もこの十年くらいの間に建てられたらしいものばかりだ。
思いがけない郊外の車も多い道沿いの樹草浴は二十分ほど。モダンな和装店の角、井の頭公園に出るところで終わると「風の散歩道」の看板がある。なぜこんな日本中のどこでも交換可能な、無粋な名前をつけるのだろう。これは玉川上水でその沿道なのだよ、玉川上水といえば、享保の改革とか太宰治とか、知っている人ならいろいろ思い浮かべるだろう、それが文化というものじゃないのか、などと二十年前には思わなかったに違いないことを考えながら、ここまで来たからには少し公園を歩いてみようと思う。

少し上を見ると、井の頭通りの「0101」の看板。そんなロケーションに樹々を集めたこの公園には、花見や酔っ払った帰りなどわずかばかりの個人的な記憶や、テレビや映画でみたメディア的な記憶が重なっている。
けれどもそれらはそう詳しく刻まれているわけではないから、あの夜、酔っ払って昇ったのはどの樹だろうとか、あの女優がソフトクリームを買ったのはあの売店だったかなとか、はっきりしない地図の上をふらふらと進んで行くと、途中、さっき打合せで話をした編集者のOさんから電話。「ああ、わかりました」なんて、人の少ない池の橋を渡りながら仕事の一部ができてしまうのも、二十年前には思いもよらぬことだった。
やがて、わあわあいう声がだんだんと大きくなって、少し気の早い、きっと花でなく人の都合に合わせて来てしまったのだろう花見客の多いボートがある池に出る。

……池に複雑に伸ばした枝に七分くらいの花……「コットンって化粧水でしょ」……ビニールシートの真ん中にペットボトルだけ五、六本……「いーしやーきいも~」……いつもと変わらぬだろうマダムとダックスフントの散歩……「では、本日の集まりの最初につきまして、○○部長から」、ぱちぱちぱち……舳先を一点に集めて所在なさげなボートども……「でも、最初はあの先輩も」……アルミ箔のような光る服を着て発泡酒を飲む若いやつ……「あの頃まずベンチャー企業にですね」……五、六人全員が携帯画面を見つめる欧米人たち……「まったく迎え酒だよな」……電源は何だろう、曲がった蛍光灯の照明具五つ六つ独占のグループ……「……」(ただ黙し相手見つめる二人)……「ビールありまーす」……自転車の前に幼児乗せた母親……飲み屋から白と茶色の大きなねこが出てきて「にゃー」

……そう、こんな『賑やかな孤独』にいると思い浮かぶのは家にいるねこどもの顔。こっちがどこで何していようと、きっと家で何かしている。それが必ずしも待っているのだとは思えないけれど、まあ帰るかと「0101」の方向に足を向け、けれどもちょっと疲れたからと伊勢屋公園店で、もうめったに見ないサッポロラガービールを一本と焼鳥三本を須賀敦子を読みながら。このかしらなんてうまいんだと十分に驚いた後で、相席の見知らぬ初老の単独ビール飲みに「では失礼」と席を立って井の頭通りへ。
スターバックスやボブ・マリーの小物が並ぶ途中の小路は、あれ、こんなスペイン坂みたいだったのだろうかと驚いたけど、建物は新しいものばかりで、きっとこの二十年にこうなったのだろうと納得。ふと、おばさんが女子店員と桜の鉢植えの話をしていた店で目についた蚊帳の木綿でできた桜模様の西陣ハンカチを衝動買いしてしまい、これ洗濯機で洗っていいんですかとの質問に、二人がかりで丁寧に説明する接客に、これも悪くないと思う。

さて、ねこども帰るかなと思ったがなぜか北口に足が向いてしまい、三鷹時代によく買ってた三浦屋で当時と同じマンデリンを購入、それからサンロードとかPARCOの地下とかそこら辺をうろついて、こうなりゃと往時を思い出して二杯目のラーメンを食して、これはちょっと余計な行動。家でねこどものおでこに額を合わせたのは夜中の一時頃で「にゃお」。

さくらも むさしのも あるきも めでるも
よい ゆめ ここち たわごと

(Phは、これはほとんど3年もの安携帯役に立たず呆然の桜。BGMはバーンスタイン見つからずのカラヤン『春の祭典』から、『賑やかな孤独』の入った、これは確認すると18年前の桜の季節のサディスティック・ミカ・バンド『天晴』。霧島カレン参加のこれは当時5000円のチケット2万円出してNKホールでみたが、今年の木村カエラはきいてない。……「飽きもせず繰り返すオペラ」「僕たちは声のない役者」「週刊誌を読むだけのピエロ」「出し物は賑やかな孤独」……なお、この日3月27日はドロンパの誕生日だそう)
コメント (1)
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