真夜中の観戦者…

風呂からあがると すぐに夕食の時間となり、豪華な御馳走を食べながら弟と酒を酌み交わした。

だいぶ食べ過ぎて、飲み過ぎて苦しくなってきたので 布団を広げ寝転がっていると…いつの間にやら寝入ってしまい 気がつくと真夜中で、傍では弟が暗闇のなかサッカーアジア杯決勝を観戦していた。

母と僕が寝ているというのに テレビのボリュームはなかなかに大きく、試合が白熱してくると興奮し声まであげ始めたので とても寝ていられず、僕も起き出して一緒に観戦を始めた。

試合が延長戦にまで突入すると、いつしか僕まで興奮し声をあげていて ついには母も起き出し、結局三人一緒になってテレビにかじりつき応援した。

弟は いつの間にか…

ホテルに着くと、荷物を置いて すぐに浴場へと向かった。

入口で母とわかれ、弟とともに男湯へ入る。

うるさい母がいなくなり、ようやく弟と二人きりになれたので 母の前では話しにくい今後の事などを話した。
旅行前は弟に言いたい事が幾つもあって、説教でもしてやろうかと考えていたが…弟は 会えずにいたこの数年の間にすっかり“立派な大人”になっていて 僕が言わずとも全て自覚しているようだったので 特に僕からは意見しなかった。

弟は湯に長い事つかるのが苦手らしく、せっかく温泉に来たというのに早々とあがってしまった。

僕は ひとり露天風呂に入り、闇夜から風にのって降りてくる粉雪をじっと眺めた。

沖縄にいた頃を ぼんやり思い出した。

行き先は寒い寒い鬼怒川…

（先週末 母や弟が上京してきた話)
いまは母と弟、そして僕は別々に住んでいる。

僕が盆や正月も実家へ帰らないので、なかなか揃って顔を合わせる機会がない。

そんな調子だから 弟と会うのは随分久しぶりで前に会ったのは僕の結婚式の時だから…約三年ぶりという事になる。

せっかく こうして集まれたのだから 近場の温泉にでも行こうと思い、二人を引き連れ鬼怒川温泉へ向かった。

前に社員旅行の幹事として鬼怒川温泉を調べたものの いろいろあって結局社員旅行自体がナシとなり、悔しい思いをしたので「いつか個人的にでも行ってやろう」と前から考えていた。
だから旅行を計画した段階から行き先は“鬼怒川”と決めていた。

“南”から来たばかりの母らの事など全く気にせず行き先を決めてしまったが…さすがに この時期の日光や鬼怒川は二人にとって想像を絶する寒さだったようで 母は「寒い 寒い」と終始ブツブツ文句を言っていた。
やはりもう少し気をつかうべきだったか…

親孝行？…

前日 空港より移動したあと、ビジネスホテルに宿泊した母と弟を車で迎えに行った。

約束の時間より少し早かったが、二人はすでにホテルの前で待っていた。
意外と早く合流できたので 帰り道はわが町を紹介しながらゆっくり遠回りした。

自宅では家族が僕らの到着を待っていて、家を出る前まで大泣きしていた娘も 授乳が済み大人しくなっていた。

(沖縄の)母は“初孫”となる娘を見るとはしゃぎだし、抱いたり、話し掛けたりして可愛がっていた。
そして沖縄で買い持ってきたベビー服を鞄から取り出すと、一着一着長い説明が始まった。
（思えば土産物はほとんど娘のものだったな）

とめどもなく喋り続ける母に“やれやれ”という感じだったが とても嬉しく、楽しそうだったので 少しは親孝行になってるのかなと思った。