後家願望
えー、いつでもどこでも、若い衆が集まると、お色気のほうに話がゆくもので、
「あァ、おいらおぼこ(純情)な生娘きむすめが好きだな。小間物屋のお久ちゃん、いいよなァ、あの娘は」
「いやいや、しんねこ(人目をさけて語り合うこと)は年増に限るぜ、どうだい、横丁の師匠の、あの色っぽいこと」
「俺は地女より、商売女がいい。吉原の八幡桜の、千歳てぇ妓こは、そりゃあもう、飛びっきりだぜ。女は女郎に限らあ」
「冗談いっちゃあいけねえ。モノにしたいなァ、大きな声じゃいえねえが、尼さんだよ。こんど法然寺に来た若い比丘尼。見ただけで、ブルッと来ちゃう」
勝手なことをいい合っておりますのを横目に一人が、
「おめえら、みんな若えな。何といっても色は後家さんに限ると、むかしからいうだろう。伊勢屋の若旦那が死んで、後家さんになったあのお花さん。あの艶やかさ、色っぽさはたまらねえじゃねえか」
「あー、そうだ」
と、たちまち衆議一決して、後家さんが一番ということになった。
中の一人が、無精ひげを撫ぜながら、
「ああ、俺の女房も、早く後家にしてみてえ」
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