首に大きな石をぶら下げた男が水に飛び込もうとしていた。ちょうどその時、肩をたたく者があった。振り向くと、黒い服を着た鉤鼻の老女だった。
「あんたは何をしちょるのかな」
「わたしは死にたいのです。借金は山のようです。今朝、会社を首になりました。帰宅して家内にそのことを知らせたら、彼女は荷物をまとめて出て行きました。もう死ぬしか有りません」
「そんなに死に急ぐことないぞ、わしの言うことをまあ聞くがいい。わしは魔法使いじゃ。なんでもたちどころに変える力を持っている。三つの願いを言いなさい」
「家内に戻ってきて欲しい、職場に復帰したい、お金が欲しい。この三つがわたしの願いです」
「よーく分かった。もしわしと愛の一夜を過ごせば、あんたの望みはかなえられる。明日の朝、家に帰ると奥さんが戻ってきており、会社からは解雇を取り消す手紙が届いているだろう。そしておまえの買った宝くじが一等賞になるだろう」
これを聞いた男、こんな醜い老婆とセックスをするのは反吐が出そうなくらい嫌であったが、三つの願いの実現だけを楽しみに魔法使いと一夜を過ごした――
翌朝。
男が満身に喜びをあらわしながらイソイソと立ち去ろうとしたとき、魔法使いの老婆が聞いた。
「おまえさんはいくつじゃ」
「四十になります」
すると老婆が冷たく言った。
「四十にもなって、まだ魔法を信じておるのか?」
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