ミニ丈のワンピースをひらりとさせながら買い物をする若い女性。ただ、このミニスカは単なるファッションではなかった。「おとり」だ。それも、痴漢や盗撮犯を摘発するための“おとり捜査”ではない。その逆。「美人局(つつもたせ)」の盗撮版といったところか、盗撮させた上で示談金名目で金を要求するためのおとりだったのだ。9月、恐喝容疑などで大阪府茨木市の会社員(31)ら3人が逮捕される事件があった。この中には、おとりミニスカを演じたパート従業員で会社員の21歳の妻も含まれていた。事件をめぐっては被害届が取り下げられ、3人は結局、不起訴処分となったが、逮捕当時「盗撮はカネになる」と話していたという。実際、盗撮行為は増加し続けている。
「うちの嫁、盗撮したやろ」
7月6日、休日の買い物客でにぎわう大阪・梅田の家電量販店の売り場。裾がふわりと広がったミニ丈のワンピース姿に、白いハイヒールを履いた若い女性の姿があった。
商品を見るためなのか前屈みになる。そうすると、スカート丈がさらに短くなり太ももがあらわになる。「そそる、と表現すればいいのか。そんな姿だったようです」(捜査関係者)。
大阪府警曽根崎署によると、買い物に訪れていた男性会社員(29)は、その姿が気になっていた。盗撮の欲望に駆られた男性は、自分のスマートフォンを女性に近づけ、スカートの中を盗撮した。
しかし、その直後、男性は近づいてきた男にいきなりそのスマホを取り上げられた。
「うちの嫁、盗撮したやろ」。ミニスカの妻の夫だ。この夫は男性を店外に連れ出した。
「警察に行くか示談にするか、どっちや」
夫は示談金50万円を要求。その場で1万円を奪った上で、後日、指定する場所に残りの49万円を持ってくるよう話をつけたという。
妻の「盗撮被害」がきっかけ
男性がその日夜に、同署に相談したことで事件が発覚、この夫婦らの逮捕につながった。
同署によると、夫婦らが犯行を思い立ったのは、妻が1年ほど前に神戸市内で盗撮被害にあったことがきっかけだったようだ。
今回の事件で共犯として逮捕された夫の幼なじみで不動産業の男(30)と3人でいる際に盗撮被害の話をしたところ、「これは金になるかもしれない」と思いついたという。
夫らが示談金名目に設定した50万円という金額は、大阪府迷惑防止条例違反(盗撮)罪の罰金上限額と同額だ。夫は罰金の上限を確認した上で、相手が納得できる額として設定していたとみられる。
「昨年の9月ごろから20回ぐらいやった。簡単に金が手に入り癖になった」
調べに対し、夫は、そう話したという。
裏を返せば、それだけ盗撮行為に走る男性が多いということにもなる。
身近な犯罪と化した「盗撮」
盗撮被害は近年、全国的に増加している。
警察庁によると、平成25年の摘発件数は2722件で、21年の倍近い数字に跳ね上がっている。
実際、JR大阪駅などターミナル駅や多くの百貨店を管内に抱える曽根崎署の幹部も「うちの管内でも盗撮は多い」と話す。同署管内だけでも、今年1~8月の盗撮による摘発件数は約40件。多い月では10件に上る。
被害は、駅やその周辺のエスカレーターや階段で犯行に及んでいるケースが多いといい、全体の7割近くがスマホなど携帯電話を使った盗撮だという。
「昔は盗撮は特殊なカメラを使わないと実行できなかったが、カメラ付きの携帯電話が普及して以降、手軽な犯罪になってしまったのではないか」と、同署幹部は指摘する。
盗撮が身近な犯罪行為になった現在、実際に被害に遭遇した今回の夫婦。被害者だったはずが、“泣き寝入り”することなく、その被害を逆手にとったともいえる。
今の世の中、痴漢行為をめぐっても、犯行をでっち上げたり、同様に示談金名目でカネを脅し取る事件も起きている。
一方、今回の事件で、実際におとりにひっかかって盗撮した男性は罪に問われるのか。
同署によると、妻は盗撮されることを想定しており、男性の行為が「人を著しく羞恥させる」という府迷惑防止条例上の盗撮にはあたらないとしている。しかし、盗撮の衝動を抑えきれなかったことは事実である。