株主総会前日の3日、会場を訪れたバフェット氏(ネブラスカ州オマハ)=ロイター
【オマハ(ネブラスカ州)=竹内弘文】
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイが4日、株主総会を開いた。
米アップル株の保有減少など売却が目立つ一方、バフェット氏は「良い球が来た時しかバットを振らない」と述べ、新規投資機会の乏しさをうかがわせた。要因は高金利だ。株投資のハードルが高まった結果、手元資金は30兆円に迫る。
現預金と米短期債の保有額を合算した広義の手元資金は3月末時点で1889億9300万ドル(約28兆9000億円)と23年末比13%増え、過去最高を更新した。
「6月末には2000億ドル(約30兆6000億円)程度になると考えるのが妥当だ」。バフェット氏は説明した。
アップル株、一部売却も「コカ・コーラより優れたビジネス」
時価総額でいえば米ウォルト・ディズニー(約2080億ドル)や米マクドナルド(約1950億ドル)に相当する金額を抱えることになる。莫大な「キャッシュの山」積み上げの要因は主要銘柄の売却にある。
4日開示した四半期報告書の情報をもとに算出すると、主要な保有銘柄5社のうち首位のアップルの保有株数を13%程度、同5位の石油大手シェブロン株を2%程度、1〜3月期にそれぞれ売却した。米メディア大手パラマウント・グローバル株についても「すべて売却した」と語った。
アップル株売却の背景には、売却益にかかる税率21%が今後上昇するとの見立てがあるとバフェット氏はいう。
株式を長期保有する米コカ・コーラや米アメリカン・エキスプレスは「素晴らしい事業」だが、アップルは「さらに優れた事業だ」と述べ、一部売却しても有望な銘柄との評価には変わりはないと説明した。
対照的に、バークシャー株主の関心の的である次の投資機会については、消極的な発言が目立った。「我々は資金を(新規投資に)振り向けたいが、低リスクで大きな投資収益が見込める企業でなければ投資することはない」
配当上回る金利収入、株価水準は上昇
割安な優良株を見極めるのがバフェット氏の真骨頂。
そのストライクゾーンを狭めているのは、金融引き締めの長期化に伴う短期金利の高止まりだ。3カ月物短期債の利回りは足元で約5.4%。「5.4%の現状では手を付けないさ。1%だったら話は別だが。米連邦準備理事会(FRB)には内緒だ」。冗談めかした口調に本音がのぞいた。
短期債から得る金利収入は23年7〜9月期から3四半期連続で保有株の配当収入を上回った。値上がり益を狙うにも主要な株価指数であるS&P500種株価指数は年始から7.5%上昇しており、3月末に付けた史上最高値を再びうかがう水準にある。
2月下旬に公表した「株主への手紙」で、当時進行していた急ピッチな株高や近視眼的な投資家行動に警鐘を鳴らしていたバフェット氏。
なんらかのきっかけで市場が動揺し、投資家心理が悪化すれば機動的に動いて投資機会をつかめるとの自信も筆致にはにじんでいた。
バークシャーの主たる投資先である米国株では22年秋以降、本格的な調整局面は起きていない。金利と株価水準の高止まりの併存がバフェット流投資のハードルを高めている。
例外的に、有望な投資機会として総会で言及したのが日本株だった。2019年から投資を始めた、三菱商事や伊藤忠商事など大手商社5社については「圧倒的な説得力があり、投資開始から1年をかけて我々の(上場株保有)資産の数パーセントを占めるまで増やした」と述べた。
「来年も総会に来る」、健在ぶり示す
ただ、バークシャーの規模が大きくなるにつれ、大きな投資機会を見つけるのは米国外でも容易でなくなってきているとバフェット氏は説く。
総会でインド株への関心を聞かれると「まだ開拓されていない機会があるかもしれない」と述べつつ、同国での「ビジネスに対する洞察力や人脈を私たちは持っているのだろうか」と回答。中長期的な課題であると説明した。
23年11月にバフェット氏盟友で副会長を務めたチャーリー・マンガー氏が死去し、今回の総会では経営の後継体制もテーマとなった。バフェット氏は経営体制の承継について「そう遠くはない」と述べた。
バフェット氏はグレッグ・アベル副会長が事実上の後継者であると公言している。
「資本配分はグレッグに任せることになるだろう」と語り、事業投資や株式投資の責任はアベル氏が負うことになると説明した。
総会の締めくくりに「来年もこの場に来たいと思う」とも述べて会場を沸かせた。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米バークシャー・ハザウェイの投資動向や解説、同氏に学ぶ投資術に関する記事をまとめました。
ウォーレン・バフェット氏(Warren Buffett) 1930年、米中西部ネブラスカ州のオマハに生まれる。6歳からガムを売り歩き、11歳で株式投資を始めた。
「割安株投資の父」ベンジャミン・グレアム氏に感化されて投資家の道を志す。1965年に繊維会社だったバークシャー・ハザウェイの経営権を握り、同社を母体に投資や事業投資を展開して財を築いた。
優良銘柄を本質的価値より低い価格で買う投資スタイルで知られ、「オマハの賢人」との異名を持つ。大富豪ながら質素な生活で知られ、コーラとハンバーガーを好む。
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日経記事2024.05.05より引用