ショルツ独首相(右)とマクロン仏大統領は政権基盤の弱体化に直面する(5月、ベルリン郊外)=ロイター
フランス下院は7月の決選投票を経て、極右も左派も過半数に届かない「ハングパーラメント(宙づり議会)」に陥った。
米格付け大手S&Pグローバル・レーティングは、仏政府の財政削減計画が予想を下回れば国債の格付けを圧迫すると指摘する。
現在の政治情勢を生んだマクロン仏大統領による国民議会(下院)の電撃解散表明から間もない6月下旬、仏国債庁のトップ、アントワーヌ・デルエンヌ氏の姿が東京にあった。
目的は日本の金融機関幹部との面会だ。決選投票が目前に迫るなか、来日して仏国債の需要を慎重に探った。
同氏は仏財務省での経歴が長く、フランス財政のキーマンだ。フランスの国債発行残高は2.5兆ユーロ(約390兆円)ほどの規模で、過半を国外のマネーに頼る。
仏国債保有、日本がEU外で最大
欧州連合(EU)域外では日本の保有が最も多い。
仏国債庁はわざわざ日本語のホームページを開設して情報発信するなど日本の投資家を強く意識してきた。
日本の生命保険会社幹部は、仏国債の購入は為替ヘッジ後の円ベースで日本国債の利回りと比較する必要があると説明した。
かつて欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が主催する内部の勉強会に日本生命保険から代表者を招集されたこともある。
ECBはユーロ圏の国債など保有資産の圧縮を進める最中だ。「ジャパンマネー」が引き揚げられると国債価格の下落に直結しかねない。
フランス国債についてはS&Pが5月下旬に従来のAAからAAマイナスに引き下げた。今後、格付けが「A」に下がれば「AA」帯を対象に投資する機関投資家から資金が流出することが予想され、金利の不安定化は不可避だ。
ショルツ独政権に不満高まる
問題はフランスだけにとどまらない。6月の欧州議会選では各国で極右の伸長が目立ち、オランダでは7月に極右主導の連立政権が誕生した。
11月の米大統領選で北大西洋条約機構(NATO)の離脱を口にするトランプ前大統領が返り咲く可能性もあるなか、欧州最大の経済大国ドイツでもショルツ政権への不満が80%近くに達する。
「未来に向けた戦略はほとんど結果をもたらしていない」。
6月下旬、ドイツ産業連盟がベルリンで開いた年次の経済会議。政財界の要人が一堂に会した開幕の挨拶で、ジークフリート・ルスブルム会長はショルツ首相を前に公然と批判を展開した。
同連盟は日本の経団連に相当する組織だ。
ロシアのウクライナ侵略後、ドイツの景気回復は欧州各国に比べ出遅れており、ショルツ政権への不信や不満が募る。4〜6月期の独国内総生産(GDP)は欧州主要国で唯一のマイナス成長になった。
とりわけ金融機関に深刻なのが企業倒産だ。独連邦統計庁によると、1〜6月期の企業破産件数は1万件あまりと前年同期比で25%も急増した。
業種別では運輸・倉庫業や人材派遣などのサービス業に加え、高金利が直撃する建設業で倒産ラッシュが続く。
政策不確実指数、独が仏を上回る
米スタンフォード大教授らが開発した経済政策の不確実性を示す指数で、ドイツは7月に850近くと統計で遡れる1993年以降で最高になった。
8月も520台と米金融危機時の2倍超の水準で高止まりし、フランスの390弱を大幅に上回る。
9月には旧東ドイツ地域のチューリンゲン州の州議会選挙で、極右ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が得票率で首位に躍り出た。
極右政党が州議会レベルで第1党になるのは第2次世界大戦後で初めてだ。22日の東部ブランデンブルク州の州議選でもAfDは第1党をうかがう。
2期目に入ったEUのフォンデアライエン委員長は極右政党に対抗姿勢を示すが、EUの基本的な理念や政策に懐疑的な勢力をまとめる難易度は高まっている。
かつてドイツが「欧州の病人」と呼ばれたが、欧州全体が長期停滞し「世界の病人」に陥る恐れもある。
ロンドン=山下晃、大西康平、ベルリン=南毅郎が担当しました。
日経記事2024.09.19より引用