米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利した。外国為替市場では開票動向で優勢が伝わるにつれて円安・ドル高が進んだ。
選挙戦で掲げた政策が米国のインフレを再燃させて高金利が長引くとの観測が市場で強まったためだ。ただトランプ氏は米国経済にとってドル安が望ましいとの姿勢を隠しておらず、マーケットには波乱リスクが横たわっている。
米大統領選で共和党のトランプ前大統領が勝利した。外国為替市場では開票動向で優勢が伝わるにつれて円安・ドル高が進んだ。選挙戦で掲げた政策が米国のインフレを再燃させて高金利が長引くとの観測が市場で強まったためだ。ただトランプ氏は米国経済にとってドル安が望ましいとの姿勢を隠しておらず、マーケットには波乱リスクが横たわっている。
「米国にとって完全に大惨事だ」。トランプ氏は4月下旬、34年ぶり(当時)の水準まで進んだ円安・ドル高局面のなか、SNSへの投稿でそう懸念を示した。
トランプ氏がドル安を望むのは、それが国内企業の輸出に追い風となり、米製造業の競争力を高めると考えているためだ。この円安局面では、その後、1ドル=160円を下回るまで円安が進んだ。
これは最近に始まったことではない。トランプ氏は前政権スタート直前の2017年1月半ば、米紙のインタビューにおいて、中国の人民元政策への批判の中で「我々の通貨は強すぎる。米企業は(中国勢と)競争できない」と発言した。
基軸通貨ドルを持つ米国のトップに就く人物による、通貨安誘導の回避という国際合意を逸脱した異例の発言だった。
外国為替市場ではドル高修正が意識され、ドルが対円も含めて急落した経緯がある。
そんな「ドル安志向」とは裏腹に、今回の米大統領選の選挙戦終盤にはトランプ氏優勢との見方が広がるにつれて幅広い通貨に対しドル高が進行。
当選が確実となった6日には一時1ドル=154円70銭台と7月下旬以来3カ月ぶりの円安・ドル高水準をつけた。ユーロや英ポンドなど他の主要通貨に対しても急速なドル高が進んだ。
ドル安志向のトランプ氏が政策的にドル相場を押し下げるシナリオとなれば、損失を抱えかねない危険なドル買いにも思える。
それでもドル高が進んだのは、次期トランプ政権下では政策によって再びインフレが進むとの見方が強まっているためだ。
米連邦準備理事会(FRB)は新型コロナウイルス禍を経て一時9%台まで急上昇したインフレを抑え込むため、22年3月から政策金利をゼロ%から5%超まで大きく引き上げた。
インフレの落ち着きを受け、24年9月に4年半ぶりの利下げを決めて利下げ局面に入ったが、インフレ再燃なら利下げペースが遅れ、米金利が高止まりしかねない。
お金は金利が低い方から高い方へ流れる。つまり高金利の通貨は買われ低金利の通貨は売られる。米金利が高止まりすることで当面は日米金利差が開いたままになるとの読みから、円を売ってドルを買う動きが広がっている。
トランプ氏の公約のうち、とりわけマーケットがインフレ再燃リスクとして注視しているのが①減税の継続・拡大②関税引き上げ③移民対策の強化だ。
①減税の継続・拡大
トランプ氏は前政権時の目玉政策として17年に減税・雇用法(トランプ減税)を成立させた。個人所得税の最高税率を引き下げたほか、相続税や贈与税の基礎控除をほぼ倍増させた。
このうち25年末に期限が切れる分の恒久的な延長を打ち出している。さらに法人税を引き下げる意向も示している。
SMBC信託銀行の二宮圭子シニアFXマーケットアナリストは「市場は減税効果による消費刺激を意識している」と話す。
人々が使えるお金が将来も増えればモノの売買も増えて経済活動が活発になり、モノの価格は上がりやすくなる。
②関税の引き上げ
自称「関税男(Tariff Man)」のトランプ氏は日本製を含む全ての輸入品に一律で10〜20%の関税をかけると主張している。
輸入品の関税が上がれば、それだけ輸入コストの増加につながる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは「関税を払う輸入企業が利益を確保するためには一定程度を価格転嫁せざるを得ず、輸入品の値段に上昇圧力がかかる」と分析する。
③移民対策の強化
前政権時代にメキシコとの国境で壁の建設を進めたトランプ氏は、今回も不法移民対策の強化を掲げている。移民の流入は米企業の人手不足を緩和し、米国内の賃金上昇を和らげてきた。
強制送還や流入阻止によって移民の数が減れば、米国内の人手不足が深刻化する。
あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「企業は働き手を確保するためにより高い賃金を提示し、賃上げがモノの価格の上昇につながる『賃金インフレ』につながりかねない」と指摘する。
トランプ氏が前々回の大統領選で勝利した16年には、翌年1月の大統領就任前にドル高のピークをつけ、その後の任期中はドル高の勢いは鈍った。
当時もトランプ減税への期待からドル高が先行したが、その後は米株高などを受けたリスク選好のドル売りやコロナ禍での金融緩和によるドル相場の押し下げがあった。
来年1月の次期政権スタート後についても、トランプ氏が掲げてきた政策を実行していくため、どのように現実路線へと落とし込んでいくかに焦点が移る。
インフレが再燃した場合、足元の市場の読み通りにドル高が継続するシナリオがある。
一方、FRBの金融政策を含めて政策対応を間違えれば景気減速からのドル売りが進む可能性も捨てきれない。予想以上に国際摩擦が強まれば、基軸通貨ドルへの資金退避が進むかもしれない半面、米中対立の文脈ではここぞとばかりにトランプ氏のドル安志向発言が飛び出すかもれない。
次期政権のスタート前から進むトランプ氏をめぐる「言行不一致」の円安・ドル高。その先を見通すため、市場参加者はトランプ氏の一挙手一投足をウオッチしていくことになる。
(神山美輝)
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