暗号資産(仮想通貨)ビットコインを組み入れた米上場投資信託(ETF)を保有する機関投資家の裾野が広がっている。
日本経済新聞の調べでは、3月末比で2割増え、1200社を超えた。公的年金など長期保有を前提にする投資家が金(ゴールド)と同様にインフレ耐性の資産として投資する動きが増えている。
情報サイトの米コインマーケットキャップによれば、11月30日午後3時(日本時間)のビットコイン価格は9万7000ドル前後で、24時間前比で約1%上昇した。11月は連日で最高値を更新しており、この1週間は10万ドルを試す展開が続く。
昨年末比での上昇率は2倍超と、2割高の世界株(MSCI、現地通貨建て)や3割高の金を上回る。ビットコインを含む仮想通貨市場全体の時価総額は、約3.3兆ドル(約500兆円)と、米マイクロソフトやアップル、エヌビディアなど米巨大テック企業に並ぶ。
背景にあるのは米国の仮想通貨への規制が強化から緩和に転換するとの見方だ。
米証券取引委員会(SEC)は11月21日、バイデン大統領が任命したゲンスラー委員長の退任を発表した。ゲンスラー氏は仮想通貨規制派の筆頭で、トランプ米次期大統領が解任を公言してきた経緯がある。
投資マネーの受け皿になっているのが、SECが1月に承認したビットコインの現物に投資するETFだ。足元の運用資産の合計は約1000億ドル(約15兆円)に達した。
日経新聞が11月中旬までに米国の機関投資家がSECに届け出た報告書(フォーム13F)をQUICK・ファクトセットのデータを基に集計したところ、9月末時点のビットコイン現物ETFの保有が判明した機関投資家は1224社で、3月末比で2割増えた。
英キャプラ・インベストメント・マネジメントなどのヘッジファンドに加え、長期運用を基本とする米国の年金基金もビットコインETFに資金を振り向けている。
公的年金などを管理するウィスコンシン州投資委員会が継続保有しているほか、ミシガン州退職年金制度が新たに690万ドル保有したことも分かった。
米投資銀行ゴールドマン・サックスも新たに「保有者」に加わった。
同社は自己勘定ではなく顧客資産勘定でビットコインETFを管理する。富裕層からの保有ニーズに対応している。
機関投資家をビットコイン投資に向かわせるのは、トランプ氏が仮想通貨業界の振興に取り組むとの期待に加え、関税の引き上げや減税の恒久化といった政策がインフレ圧力を強めるとの見方だ。
長期目線の富裕層や年金基金はインフレで保有する現金の価値が低下することを警戒する。インフレによる購買力低下を回避する手段として金(ゴールド)を保有資産に組み入れる、といったことが広く行われてきた。
ビットコインは発行総量に上限があり、埋蔵量が限られる金になぞらえる向きがある。無国籍で特定の発行体による信用リスクがないことも一部の長期投資家がインフレ耐性のある価値保存の手段として、ビットコインに注目する理由だ。
ビットコインETFを提供する世界最大の運用会社、米ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者は「ビットコインはデジタルゴールドだ」と述べている。
金はETFを通じて市場を成長させてきた。04年にステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが手掛ける金ETFがニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場すると、金売買が活発化し、ドル建て価格は約6倍に膨らんだ。
ビットコインを金や他の伝統的資産と同列に扱うことには異論も多い。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「株式や商品と同列とは思わない」と指摘する。犯罪に利用されやすいことや、ハッキングのリスクを挙げ、価値保存の手段として適さないとの立場だ。
京都大学の川北英隆名誉教授も「ビットコインの採掘に多大なエネルギーを要するためESG(環境・社会・企業統治)の精神に反する」と指摘し、年金基金は投資すべきではないと主張する。
懐疑派の代表格、著名投資家ウォーレン・バフェット氏は「目に見える価値を生み出さない」と指摘する。企業が稼ぐ利益や配当などが裏付けとなる株式と違い、需給で動く要素が強いからだ。
金は宝飾品や通貨として人類の歴史と共に歩んできた。インフレ回避の手段として機能してきた長年の実績もある。
ビットコインは誕生からまだ15年で、長期投資の要件を満たしているかどうか判断するのはまだ早い。ただ一部の富裕層や年金が先駆者として動き始めたことは確かだ。
(河井優香、高山智也、篠崎健太)