政府は2025年にも企業が自社株を使って海外企業を買収できるように会社法を改正する。
現行制度では国内企業の買収にしか利用できない。株式と現金を組み合わせた買収の手続きも簡素化する。M&A(買収・合併)の手法を増やすことで企業の海外への拡大戦略を後押しする。
企業が買収する際、自社株を対価として対象会社の株式を譲り受ける制度である「株式交付」の適用範囲を広げる。
国内企業の買収手法としては21年に解禁しており、海外企業を買収する際も使えるように法制度を見直す。
現在は認めていない子会社への出資比率引き上げや連結子会社化の場合にも利用できるようにする。似た仕組みである「株式交換」と違って完全子会社化する必要がないため、幅広い資本提携に使える。
政府が近くとりまとめる規制改革推進会議の答申に会社法の改正方針を盛り込む。24年度中に法制審議会で諮問した後、国会に会社法改正案を提出する。
レコフデータによると23年の日本企業による海外買収は22年比6%増の661件、金額は8兆円超と2倍以上になった。海外企業との競合が増えたことや、人口減の日本よりも海外の方が成長可能性を見いだしやすいことが背景にある。
足元の円安は現金買収の逆風となっており、日本勢は入札の金額面で劣後しやすい。自社株を対価にできれば資金面や買収後の財務体質面での負担が減る。特に手元資金が少ないスタートアップ企業が買収を検討しやすくなる。日本株の上昇も追い風になる。
日本で外国企業の買収対価に自社株が使えないのは、株式交付の対象となる外国企業が日本の株式会社と同種の形態かを判断するのが難しいという法律の運用上の判断があったという。民間企業からは実態に即していない規制だとの指摘が出ていた。
株式交付と現金とを組み合わせる「混合対価」と呼ぶ買収手法も使いやすくする。現在は買収に先立って官報公告に掲載し、異議申し出を受け付けるなどの債権者保護の手続きが必要だ。
政府は債権者への影響は大きくないと判断し、会社法改正でこの手続きを撤廃する方向で調整する。規制改革推進会議によると米欧の大規模M&A案件の3割から5割は株式交付と現金の混合だ。
自社株の活用を促す理由の一つには、企業が金庫株として保有する自社株が増えていることもある。アクティビスト(物言う株主)や東京証券取引所の改革要請で自社株買いに乗り出す企業が増え、東証プライム上場の3月期企業の金庫株は23年3月末時点で17兆円と14年3月末から倍増した。
政府は会社法改正によって自社株を無償譲渡できる対象を社員に拡大する方針も掲げる。これまでは役員に限っていた。
企業が保有する自社株の一部を社員に支給し、個人の所得向上につなげる。売却禁止期間を設けて離職を防止する効果も狙う。
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日経記事2024.05.28より引用