アグネス・スメドレー(1892-1950)
アグネス・スメドレー 中国共産党に尽くした女スパイー4: 中国共産党幹部との接触
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からの続き
ここまでの記述で明らかのように、スメドレーはコミンテルン(共産主義インターナショナル)のあるいは中国共産党の直接の指揮下にはなかったから、厳密な意味でのスパイではなかった。
しかし、第五列として十分すぎる活躍を見せた。 戦後、ソビエトとの冷戦が現実になると、米国は共産主義思想の拡大に神経質になった。 米国陸軍情報部は、彼女はソビエトのスパイだったのではなかったかと疑ったが、その証拠を呈示できなかった。
一九四九年、スメドレーの願った通り、中国共産党が中国本土を制圧し、中華人民共和国が成立した。 翌一九五〇年六月には北朝鮮軍が南下し朝鮮戦争が始まった。 破竹の勢いであった
北朝鮮軍がダグラス・マッカーサー指揮下の国連軍によって中国本土まで押し戻されると、中国が義勇軍と言う名目で解放軍を投入した。 こうして朝鮮戦争は『米中戦争』にエスカレートした。
この状況に米国議会保守派が憤った。 米国は中国を共産主義者に『奪われた』のである。 容共的であったディーン・アチソン国務長官の示したアチソンライン構想は、朝鮮半島の共産化を容認するかのようであり、それが朝鮮半島の引き金になったと疑われた。
米国議会は、アチソンに代表される国務省に蔓延する容共派実務官僚への風当たりを強めた。チャイナハンズと呼ばれていた彼らは下院非米活動調査委員会の厳しい尋問に晒されることになった。
その一人がオリバー・クラブ(Oliver Edmund Club、一九〇一年生)だった。 一九二八年に国務省に入省すると翌年には中国に赴任した。 爾来(じらい:それ以降)漢口の副領事などの要職に就いた。 非米活動調査委員会がクラブに証言を求めたのは、一九五一年三月および八月のことである。
当時、国務省中国部長であり対中外交の実務上のトップにあった。 ただ前年にはこのポストから一時的に外されていた。
彼には、前年(一九五〇年五月)に死去していたスメドレーの中国での活動を幇助した疑いが欠けられていた。厳しい追及に、スメドレーに便宜をはかったことを認めたが、クラブはそれが国務省本省の指示であったと反論した。 その時のやりとりをいかに示す。
一九五一年八月2二〇日 下院非米活動調査委員会 証人尋問
ジョン・ウッド委員長: どれくらいの頻度であなたは彼女(スメドレー)と会っていた
のか?
クラブ証人 : おそらく上海で一回、漢口で二回ほどだと思います。 ところ
で委員長、彼女に特別な便宜をはかったのは、本省からの指示
によるものです。 その証拠となる資料を提出したのですが?
フランク・タヴェンネア委員 : コーデル・ハル国務長官のレターですか?
クラブ証人 : そうです。
タヴェンネ委員 : 是非見せて欲しい。
クラブ証人 : お示ししたレターには、国務省のレターヘッドが使われてお
り、(在中国の)外交官あてに出されたものです。 アグネ
ス・スメドレー女史を公式に紹介するもので、それなりの便宜
をはかるよう現地外交官に求めています。
クラブが示した長官指示書には次のように書かれていた。
一九三四年五月四日
米国外交官及び領事館職員
ニューヨーク州選出のロバート・ワグナー上院議員(注:民主党のリベラル議員)の要請により、ニューヨーク市出身のアグネス・スメドレー女史を諸君に紹介しておきたい。 彼女はこれから海外に出ることになっているが、彼女に対しては必要と思われるそれなりの礼節を払い適当な支援をお願いしたい。
コーデル・ハル
ウッド委員長 : 長官からの紹介状を受ける側前の段階、あるいは受け取った段階であなたは彼
女が共産主義者に利する活動をしている事を知らなかった、と主張しているよ
うだが?
クラブ証人 : 彼女が共産主義者であることは知りませんでした。
ウッド委員長 : 私はそんなことを聞いているのではない。
クラブ証人 : 彼女が中国共産党のシンパであることは知ってました。 彼女が一九三三年に
出版した『中国の宿命』を読めば分かります。 また彼女のそうした思想は、
フランクフルター・ツアイトウング紙やマンチェスターガーディアン紙への寄稿
記事でもはっきりしていなす。 しかし、彼女が共産党員であるとか、スパイ
網の一員であったというようなことは知りませんでした。
この議会証言で分るように、米国務省はスメドレーが中国共産党に利する行為を続けていたことを知っていた。そうでありながらハル国務長官を含むチャイナハンズの実務官僚は、スメドレーの活動に便宜を図っていたのである。
クラブ証言は、国務省チャイナハンズによる中国共産党支援が現実に行われていたことを示すものであった。
アグネス・スメドレー 中国共産党に尽くした女スパイー6: スメドレーの死https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/3454290d5d7d58ccce7f785eb1bbc4b6
に続く