
トランプ米大統領の経済政策による円相場への影響に懐疑的な見方が浮かんでいる。
看板政策の一つである輸入関税の強化も、円安・ドル高要因なのか、円高・ドル安要因なのか、市場の評価がいまひとつ定まらない。
市場では前回のトランプ政権時のように「今後は停滞相場に向かう」との声も聞かれ始めた。
トランプ氏当選後の2024年11月から25年1月初めにかけて、円相場は1ドル=150円近辺から158円台まで急落した。背景にあったのは、トランプ大統領が大幅な輸入関税の強化を打ち出したことだ。
市場は「関税強化→米金利高→ドル上昇」というシナリオを描き、円売り・ドル買いをいっせいに強めた。

実際、関税強化に対する市場参加者の関心は非常に高い。
QUICKが為替市場関係者を対象に実施した1月の外為月次調査では、為替相場に最も影響を与えるトランプ氏の政策(2つ回答)として、輸入関税の引き上げが実に84%を占めた。
ところが実際にトランプ氏が大統領に就いたころから、市場の風向きに微妙な変化が表れ始めた。
象徴的だったのが、27日の為替市場の反応だ。トランプ氏が26日に不法移民の送還を拒んだコロンビアへの制裁として25%の関税を課す方針を示したことで市場に不安が広がり、リスク回避の円買い・ドル売りが生じた。関税強化はドル買い材料というシナリオは瞬時に吹き飛んだわけだ。
「必ずしも関税強化がドル高要因になるとは言いきれない」。外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏はこう指摘する。
関税強化がドル高要因になるという見立ては、米国内のインフレ圧力が次第に強まり、米金利が上昇に向かうことで生じる中長期シナリオだ。今回のコロンビアのような制裁を伴う関税強化は政情不安や国際的な緊張をはらむため、瞬間的にリスク回避の円買い・ドル売りを招きやすい。
市場の反応が読めないのは、関税強化だけではない。トランプ氏は金利引き下げによるドル高是正を持論として掲げる。
米連邦準備理事会(FRB)に圧力をかけるが、FRBは昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で「利下げのペースを緩めるべき水準にすでに達したか、近いところまで来ている」との認識を示しており、市場では1月のFOMCで追加利下げを見送るとの見方が大勢を占める。
トランプ氏がドル高是正を声高に訴えても、市場は安易に円買い・ドル売りで反応できない。
トランプ氏の経済政策や発言に市場が左右される「トランプ相場」だが、賞味期限は意外と短い可能性がある。
第1次トランプ政権時は、就任前こそ「トランプ減税」による景気拡大期待から急激な円安・ドル高を招いたが、就任後は次第に経済政策への感応度が鈍り、長期にわたる110円台を中心にした停滞相場へと移行した。

そして今回も就任前には、関税強化を材料にした大幅な円安・ドル高が生じた。
だが劇場型の経済政策運営や発言は、当初こそヘッジファンドなどの敏感な反応を引き起こす一方、政策の効果を見極める過程で冷静に消化され、相場材料としての感応度は鈍くなる。
みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「トランプ氏の政策運営で円相場の方向性が決定づけられるとは考えづらい」とみる。
各国・地域間の力学が複雑に絡み合うのが為替相場だ。日本政府が急激な円高や円安に苦しめられてきたように、変動相場制の下で為替相場の方向性を思い通りに操作することは現実的とは言えない。
トランプ氏の経済政策による影響も、時間の経過とともに消化され、為替相場の感応度も薄れていくことになりそうだ。
(編集委員 小栗太)
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