【パリ=吉田知弘】
フランス高級品業界の苦境を突破するカギとなるのは、卓越した技術や職人の手仕事かもしれない。
最大手LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)は、独自に技術の保存と継承を推進するプログラムや、伝統とテクノロジーを組み合わせた新技術開拓などに力を入れている。
LVMHのメティエ・ダール展示スペース「La Mainラ・マン(ハンド)」
今年10月、独自に卓越したノウハウを保存・継承するための先駆的なプログラムである「Institut des métiers d'Excellence/アンスティテゥ・デ・メティエ・デクセレンス(卓越技術研究所)」の10年を祝う「SHOW ME パリ」が行われた。
LVMHのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)が登壇し「LVMHの長期的成功はディテールのクオリティーにこだわる職人たちによるものが大きく、忍耐がカギだ」と話した。
2014年に設立された同プログラムは「ルイ・ヴィトン」「ディオール」から「ドンペリニョン」までLVMH傘下75ブランドに携わる280種の職人技術を網羅する。
高級品が永続的にその価値を保つには、揺るぎない職人の技術や貴重な手仕事によって顧客との信頼関係を築くことにあるとみる。
すでに過去10年間で、3300人以上の実習生が同プログラムで訓練を受け、7割が傘下ブランドに入社している。
26年にはパリ8区に「Maison des métiers d'Excellence/メゾン・デ・メティエ・デクセレンス(卓越技術メゾン)」として研究所の建物を確保し、LVMHグループの職業訓練と熟練したメティエの育成への取り組みをさらに強化すると発表した。
またLVMHは15年に先進的な製造業者と職人のグローバルなネットワーク開発を目的とする「Métiers d'Art/メティエ・ダール」を創設。
持続可能性に重点を置きながら革新・開発を促進する。牧畜から、皮革なめし、金属加工、繊維や布生産まで、主要である服飾・皮革事業でのものづくりにおける基盤の活性化に統合的に取り組んでいる。
LVMHグループと提携したデニム製造のクロキの工場(岡山県井原市)
日本では22年12月、LVMHメティエ・ダール・ジャパンを設立。日本における活動拠点を築き、翌年4月に岡山県井原市のデニム生地工房「クロキ」と日本初のパートナーシップを締結した。
今年9月にはLVMH主催で特別展「Ambient WeavingⅡ(環境と織物)」がパリ中心部のメティエ・ダール展示スペース「La Mainラ・マン(ハンド)」にて開催された。
東京大学筧康明研究室、ZOZOネクスト、12代続く京都西陣織物の「細尾」が20年から開発する「環境情報を表現する織物」「環境そのものが織り込まれた織物」をさらに進化させた「環境を形作る織物」などが発表された。
「Ambient Weaving II(環境と織物)」では西陣「紗」を生かして障子のように織り上げた布をつかった茶室「Ori-An(織庵)」も公開された。
フランスの高級品大手3社、LVMH、ケリング、エルメスは10月、24年1〜9月期の売上高を発表した。
グッチの回復がはかどらないケリングの売上高は前年同期比12%減の128億ユーロ(約2兆864億円)だった一方、エルメスは11%増の112億ユーロ。6〜9月期だけをみるとケリング37億8600万ユーロ、エルメス37億400万ユーロとほぼ同額。
明暗が大きく分かれるなか、LVMHは607億5300万ユーロで、2%減にとどまった。