雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

閉店

2006-02-20 | 雑記
兄が店をたたんだ。
田舎の小狭いショッピングモールの片隅で細々と写真の現像やなんかを営んでいたのだが、昨今の不況、デジカメの普及、大手カメラ会社のフィルム事業からの撤退、その他もろもろの事情により、やむおえない決断に至ったようである。
そういう訳で、昨日、私は閉店した店内の後片づけに駆り出されることとなった。この店には私も何度か遊びに行き、コーヒーやタイヤキを食べながら兄とくだらない話に興じたものだった。ちまちまと片づけをしながら、そんなたわいのない時間などを思いだして、私は感慨深い想いにとらわれていた。
しかし、そんな感傷に浸っている暇はあまりなく、サッサとクソ重たい棚やらカウンターやらを運び出さなくてはいけなかった。折りよく好天に恵まれ、じつに良い汗をかかせてもらった。
片づけの最中、何人もの買い物客が店舗跡の前で足を止め、
「やめちゃうの?」とか
「改装かい?」とか
「え~!」とか
様々な反応を示し、兄に色々訊ねてくる。その都度、兄は少々ひきつった自称エビス顔で、今までお世話になったお礼、これからの事などを、丁寧に応えていた。
説明を終えて戻ってきた兄は、私にとても憂鬱そうな顔を見せるのだが、私としては、もちろん興味本意の方もいるのであろうが、なかには本当に残念がっているお年寄りや、これからの兄の行く末を案じる主婦などを見て、
「兄ちゃん、スゲェや…」
そう、思った。
いつも不景気な面でボソボソと時代を皮肉る兄が、これほどみんなから愛されている、とまではいかないが…親しまれているのを目の前にすると、やはり、弟としては誇らしげである。
そんなこんなで、一仕事終え、一緒に銭湯で汗を流し、やっとこさありついたビール。私は兄のグラスに、惜しみない畏敬の念と「ご苦労様」の言葉を添えて、注いで差し上げた。
兄はグラスのふちから溢れ出そうな泡を見つめ、微笑っていた。
コメント (3)
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