雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

ドクロの指輪

2009-07-27 | 思い出
 7、8年前、兄貴の結婚披露宴が終わった後、兄貴の友人家族を車で送っていったことがある。そのとき、息子のY君(当時、5、6歳だったか)が、ダッシュボードに放り込まれていた『ドクロの指輪』にえらく興味を示した。
 その指輪は玩具菓子のオマケかなにかで、それほど高価なものではない。でも、わりと重量感もあって、なかなかしっかりした造りであった。
 私はY君に「いいだろ、これ。ロックの魂だ」と、見せてやる。
 彼はキラキラした眼差しで、鈍く浮き上がるドクロを見つめる。
 私はそれを彼のほうに差出し、「やるよ」と、少々気取って言った。
 彼は驚きの表情の後、満面の笑顔で「ありがとー!」と言って指輪を受け取った。
 たかだが玩具菓子のオマケだとも知らない両親も「ええっ! ホントにいいの?」などとうろたえたりする。
 私はニヒルな微笑と共に頷く。キマったな、これ。とか思いながら。


 それから久しく、Y君に会う機会がなかった(親父のほうのSさんとは度々、兄貴らと一緒に呑み散らかしたりしていた)のだが、今年のゴールデンウィークに会うことがあった。しばらく見ない間にすっかり身長が伸びた彼は、もう中学生だと言う。子供の成長とは凄まじいものである。
 すでに精通も始まっているであろう男子だ。さすがにそんな子供のときに何気なく貰ったおもちゃの指輪のことなんぞ忘れているだろう、と思っていたら、なんと彼は今年の正月に件の『ドクロの指輪』を引っ張り出してきて、私のことを色々と案じていたのだ、と言う。そのときの嬉しさと言ったら、筆舌に尽くし難い。

 彼の父、Sさんは類い稀なるミュージシャンである。その血を引くY君が、いずれギターを覚え、その『ドクロの指輪』を指に嵌めてライブなどに登場してくれたなら……私のロック・スピリッツは、これ以上ない狂喜に燃え上がり、ギターを奪い取って、燃やすか、それともアンプに突き刺すか、するであろう。
コメント
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