雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

いとしい/川上 弘美

2010-03-06 | 小説

誰かを好きになるということは、
誰かを好きになると
決めるだけのことなのかもしれない


 そんなことを言う主人公が、いとしい。というか、作者がいとしい。

 てっきり、単なる恋愛小説かと思って読んでいたら、やられた。「ああ、こんなカラクリだったんだ」と。いや、まあ、カラクリと言うと語弊があるかも知れないが、得てして恋愛なんぞはカラクリまみれの絵空事。時が経つうちに暴かれて、それをどう享受するかによって運命が進められる、のだろうとこの頃しきりに思えてくる。
 そんな、恋愛に猜疑心、というか、諦念を抱きつつある寂れたおっさんが読んでも、なんら遜色のない物語であった。

 ユリエとマリエ、姉妹のそれぞれの恋愛観とその行方が絶妙。
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東京日記 卵一個ぶんのお祝い。/川上 弘美

2010-03-06 | 小説
 その名のとおり、川上さんの住んでいる東京での出来事を書いた日記。とにかく、かわいい。行動や言動もさることながら、タイトルのいちいちがかわいい。
「どうして逃げるのー。」や「寝ても覚めてもめかぶ、の日々。」や「少し、エッチな気分。」や「みどりっぽい気分。」「よそゆきのブラジャー。」「かならずたすけます。」等々、枚挙に暇がない。そしてもちろん、「卵一個ぶんのお祝い。」

 かわいい……とか言ってよいものだろうかどうだろうか、思案したが、率直な気持ちとして、そう思った。ちょっと卑猥な記述などに出くわすと、なんだかドキドキしてしまう。なんだ? 恋か?

 いやさて、恋にしろ何にしろ、好きな人の色々を知るというのは、かくも胸踊り、充足感に満たされるものである。たとえこの日記のあとがきに「少なくとも、五分の四くらいは、ほんとうです。」などと書かれてあってもだ。
 多少の誇張くらいはものともしない、かわいさが彼女にはある。
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