雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

海猫ツリーハウス/木村 友祐

2010-03-20 | 小説
 みんながみんな、そうではないであろうが、これを読むと「兄弟の厄介さ」というか、「長男と次男の違い」というものが見える。
 巧くは言えないが、弟はわりと兄貴に嫉妬する。でも兄は弟にはあまり嫉妬しない、と思う。それを「寛容さ」と言ってしまうと軽すぎるような気がするし、「兄弟愛」などと言ってしまうには、重すぎるし、何より、こっぱずかしすぎる。

 自分は弟なので兄のあれこれについては判る由もないが、この本は弟視点で描かれているので、かなり切実に入ってきた。

 尊敬できるような立派な奴ではない。だからと言って蔑ろにしてしまえる奴でもない。それは端的に言えば「血」なのだろうが、それ以上の「歴史」というか「経過」というか……要するに、「繋がり」だろうか? しかしその「繋がり」が永ければ永いほど、深ければ深いほど、憎悪も湧くし愛執も湧く。お互いに、解っているようで解っていない、その微妙な隙間の中に、不意に流れ込む「血」の濃さとでもいうものが、「兄弟」とカテゴライズされた関係を時に縛り、時に解放する。

 なんだかよく解らないが、そういった不可思議な「繋がり」を、兄弟という奴はいつまでもでろんでろんと纏わせているものだ。

 常々、自分は兄の才に嫉妬する。もう、どうしたって敵わないと思う。だが尊敬まではいかない。それはやはり、親しみのもたらす逆説的感情であろうか。



 第33回 すばる文学賞受賞作。
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神様/川上 弘美

2010-03-20 | 小説
「あとがき」から抜粋させてもらう。

【表題作『神様』は、生まれて初めて活字になった小説である。
 「パスカル短篇文学新人賞」という、パソコン通信上で応募・選考を行なう文学賞を受賞し、「GQ」という雑誌に掲載された。
 子供が小さくて日々あたふたしていた頃、ふと「書きたい、何か書きたい」と思い、二時間ほどで一気に書き上げた話だった。】


『二時間ほど』って……

 
 貴女が神様ですわ。

 
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叫びと祈り/梓崎 優

2010-03-20 | 小説

 図書館にて……

オレ 「あの、予約の本、お願いします」

 と、貸出カードを司書さんに差し出す。

司書 「はい、少々お待ちください」

 と、席を立つ。

 が、なかなか本が見当たらないらしい。オレの後ろに何人か、待ち人来たる。

司書 「連絡、来ました?」

オレ 「はい」

司書 「え~っと……『叫びと祈り』、『叫びと祈り』……」

 嗚呼、なんか恥ずかしいぞ。なんか、タイトル連呼されるのって非常に恥ずかしいぞ。なんか、後ろの奴に「ナニ? コイツ、叫ぶん? 祈るん?」とか思われてそうで。

 嗚呼、確かに。今はなんか、叫びたいような祈りたいような気分だがなっ!



 程なく、『叫びと祈り』は見つかった。

 が、


 AVとミステリ小説のタイトルは極力、他人様には知られたくはないな

 と、思った。

 
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