コラールの成り立ちシリーズに新たな題材が加わった。麹味噌合唱団(仮名)のヨハネ受難曲(バッハ)に参加することにしたので、ヨハネ受難曲のコラールについても成り立ちをお勉強しようと思い立ったのである。既に、第5曲(Vol.5)と、第11曲(Vol.3)と、終曲(Vol.1)については掲載済なので、それ以外の曲が対象である。
ヨハネ受難曲の最初のコラールは第3曲。
この第3曲と同じメロディーなのが第17曲(調は全音上がっている。2番省略)。
すなわち、これら二つのコラールの元曲の賛美歌は同一であり、それは、ヨハン・ヘールマン(注1)の「Herzliebster Jesu, was hast du verbrochen」である(次の楽譜はヨハネ受難曲の第3曲(二つ前の楽譜)の音符に当該賛美歌の第1節の歌詞を当てたものである)。
誰々の賛美歌と言った場合、大抵「誰々」は詩人である通り、ヨハン・ヘールマンは作詞者であり、まず1630年にヘールマンの詩が公表され、その10年後にメロディーが付けられた。メロディーを付けたのは、ヨハン・クリューガー(注2)である。ヨハン・クリューガーは、本シリーズにもたびたび登場したこの時代の大立て者である。
この賛美歌は15の節から成り、ヨハネ受難曲の第3曲はその第7節であり、第17曲は第8節と第9節(二つ上の楽譜では省略)である。
この賛美歌はクリューガーのメロディーともどもなかなかの人気曲となり、バッハは、マタイ受難曲にもこの賛美歌を使用し、第3曲には第1節を、第46曲には第4節を当てている(だから、この賛美歌のタイトル(第1節の冒頭)である「Herzliebster Jesu」の歌詞はマタイ受難曲において聴くことができる)。また、そのメロディーを、オルガン用コラール(BWV1093)にも使用した。
バッハ以外の作曲家も、例えば、ブラームスやマックス・レーガー(注3)がそのメロディーをオルガン曲に利用している。また、クリスチャン・フュルヒテゴット・ゲレルト(注4)は同じメロディーを彼の受難詩「Herr, stärke mich, dein Leiden zu bedenken」に使っている。面白いところでは、現代作曲家のマウリシオ・カーゲル(注5)が、バッハの生誕300年を記念して作曲したオラトリオ「Sankt-Bach-Passion」の第19曲に、この賛美歌をもじったコラール「Herzliebster Johann」を置いている。
今回のまとめ図は次のとおりである。
これで、ヨハネ受難曲の二つのコラールの成り立ちを一度にやっつけた。なかなか、経済的である(もっとも、マタイ受難曲においては、「血潮したたる」だけで片付く曲は2曲どころの話ではない)。
出典:ウィキペディアのドイツ語版、英語版
注1:Johann Heermann(1585.10.11~1647.2.17)。BWV94の記事で当ブログに一度登場した。
注2:Johann Crüger(1598.4.9~1662.2.23)
注3:Max Reger(1873.3.19~1916.5.11)
注4:Christian Fürchtegott Gellert(1715.7.4~1769.12.13)
注5:Mauricio Kagel(1931.12.24~2008.9.18)
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