ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

ミスター・ヴァーティゴ

2009-09-17 15:05:08 | Weblog
ポール・オースター著、柴田元幸訳、新潮文庫。

今回もいい文章だった。
人生は「めまい」みたいなもの。なんだか、最近私もよくそう思う。

主人公は、砂漠の中で最愛の師匠とお別れをするとき、
どうしても師匠の望みを聞いてあげることができなかった。
そして、その結果訪れたことを、ずっとずっと自分の中で引きずって生きていく。
かけがえのない存在だからこそ、「生」も「死」もない中間で喘ぐ。

私が週に1回は見る夢がある。

夢の中で私はとても複雑な気持ちでいる。
それは、急に、母が家に帰ってくることになったから。
あるときは、部屋があまりに汚いので「やばい!」とばかりに片付けをしている。
またあるときは、せっかく母が帰ってくるのだから、好きなものを買っておいてあげようと
デパ地下で、スイーツを選んでいる。

でも、夢の中で、それはたった一瞬会えるだけで、
またすぐ母が遠くへ帰って行ってしまうことを知っている。
だからこそ、その時間のために、私は全身全霊で進む。

準備が整って、さあ、あとは母を待つだけ、となったとき、
ふと目が覚める。

そして、暗闇の中で「ああ、もう二度と会うことはできないのだ。たとえ夢の中でも」と思う。

これは、母が倒れて植物状態になった18年前から、私がずっと見続けている夢。
4年前に亡くなったけれど、夢が途切れることはない。
もしかしたら、より頻繁に見るようになったかもしれない。
悪い時は毎晩だ。
そして、翌日は、精神的に半分くらい死んでいる。

それなら、もっと明るくて楽しい本を読んで、上書きしてしまえばいいじゃないか。
いやいや、そうはならない。
そうなることはできない。

なぜなら、私はあまりにも愛しているから。