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銀英伝人物評50<オスカー・フォン・ロイエンタール>

2004年08月30日 11時35分12秒 | 銀英伝人物評
全宇宙でも指折りの用兵家で、理性と知性に富んだ男。少将の時に彼の死友というべき友人のミッターマイヤーと共にラインハルトに忠誠を誓い覇業を助ける。だが、自身のプライドの高さと野心の強大さゆえに最後は叛乱を起こした。

個人的にはラインハルトの部下の中で一番好き。何が好きって死に様がかっこいいからだ。OVAの「終わりなき鎮魂歌」や、それに該当する小説の箇所も屈指の名場面だと思ってる。特にエルフリーデが夕陽を背景にロイエンタールの汗を拭くところが美しく、何度見ても飽きない。小説でこの場面の直前にロイエンタールが自分の息子に心の中で語りかけているが、これもいい。よく考えたら死ぬ場面がこんなに丁寧に書かれている人物は他にいないので印象に残るのも当然か。

エルフリーデに言った言葉、「古代の偉そうな奴が偉そうに言った言葉がある。死ぬにあたって幼い子供を託しえるような友人を持つことが叶えば、人生最上の幸福だと」これは中国の古典が出典となっているんだけど、なんだったかは忘れた。たしか西晋時代だったような。
論語には「死に逝く友から、幼い子供を託される男こそまことの君子だ」という趣意の言葉があるけど、ちょっとニュアンスが違うしなぁ(ちなみにこの言葉は秀吉から遺児を託された前田利家が読んで感動したという有名なエピソードがあるのだが)。

ロイエンタールを語る時、叛乱を起こした理由については避けてとおれまい。たいていのファンは忠誠心よりも野心が上回ったから、という見解に落ち着いている。また、ラインハルトを誰よりも理解していたがゆえに、彼の敵手となったということもよくいわれる。これらの理由についてミナミも同意見なのだが、せっかくなので詳しく分析してみよう。

ラグナロック作戦の時から、ロイエンタールは謀反を仄めかすようなきわどいセリフを何度も口にしている。特にバーミリオン会戦の最中にハイネセンに行った時は、同盟政府が和平を拒絶して戦闘続行させる(つまりラインハルトは戦場で倒れる)ことを心の中で望んでいたことがはっきり書かれている。だが、同時にロイエンタールは自分がラインハルトに及ばないことを自覚しており、ラインハルトが自分の忠誠の対象となりうる人物でありつづける限りは叛乱など大それたことだ、と考えている。
つまりラインハルトへの叛乱は矛盾となってしまうわけだ。だがその矛盾を破らせたのは2度にわたる謀反の嫌疑(ルビンスキーの陰謀)である。彼はプライドの高さから、2度も弁解するのは嫌だと言い、ベルゲングリューンは何度でも誤解を解きに行くべきだと諭す。実際、赴任地ハイネセンからフェザーンまで行こうと思えば行けただろう。

ひとつ重要なのは、ウルヴァシー事件を奇貨として謀反を起こしたわけではないということ。事件直後はラインハルトの行方も探していたし、彼によって派遣されたグリルパルツァーが事件の真相を公表していれば、当然両者は地球教の手のひらの上で踊らされるばかばかしさを知って謀反にはいたらなかっただろう。ベルゲングリューンが最初からウルヴァシーに派遣されていれば、きちんと真相を明らかにしていただろうし、この際クナップシュタインでもよかったかも知れない。
もっとも、ルッツが死んだ時点で彼はすでに取り返しのつかない事態になったことを認識しているので、謀反を起こしたという見方もできる。それに複数の人間に指摘された通り、新領土総督としての治安の責任上、無罪とはいえない。

それらの事情が絡み合い、最終的にロイエンタールは叛乱者に仕立て上げられるのはごめんだ、ということで叛乱を起こしてしまう。つまるところルビンスキーの策謀が成功したに過ぎないことであり、それに乗ぜられてしまったロイエンタールは、内に眠る野心を利用されたといえるのではないだろうか。単に政敵ラングに敗れたという見方もできないことはないだろうが、ちょっと素っ気無いか。
・・・全然分析になっていないが、まぁいいか。


そういえばロイエンタールというば左右の目の色が違う”金銀妖瞳”が代名詞であり、原作の中では何十回とその言葉が出てきた。まったくの余談になるが、彼が叛乱を決意する直前、その金銀妖瞳で自分の死を見届けてみたいと思い、「古代の名将が自らの眼球をくりぬいて故国の滅亡を見とどけさせた」という歴史のエピソードを思い出す場面がある。このエピソードのモデルは中国春秋時代の呉の名将・伍子胥のことだろう。伍子胥は呉の君主夫差の宰相であったが、敵国である越の計略により主君から死を賜ることになる。その際に呉が遠くない未来に滅亡することを予言し、自裁する時、自分の眼球を呉の城門におくよう遺言した(もっともその遺言を聞いた夫差が怒って結局墓を作らせてもらえないのだが)。
案外ロイエンタールは中国史に造詣が深かったのかも知れない。

もうひとつ中国史がらみで思い出したが、叛乱を起こした後、ランテマリオ星域で討伐にきたミッターマイヤーと戦闘に入る直前、必ず身分の保証はするからラインハルトのもとへ行こうとロイエンタールを説得したミッターマイヤーに対し、「疾風ウォルフの約束は、万金の値があるな」といったが、このセリフはおそらく「季布の一諾」に由来してるだろう。またまた脱線するけど、季布というのは楚漢戦争期に項羽の下にいた武将で、後に漢王朝に仕えたが、義侠心に富んでいて、約束は絶対に違えない性格だったことから、「黄金百斤を得るは、季布の一諾を得るに如かず」といわれるようになったエピソードがある。

銀河英雄伝説とこのブログの雑記

2004年08月28日 03時49分53秒 | Weblog
水曜の午後から3日連続で秦野に出張になってしまいブログが書けなかった…
というか仕事中に暇つぶしでブログを書いている会社員ってどうよ?自分が社長だったら間違いなくリストラするんだけど。ラインハルトの部下だったら辺境に左遷かな。
実は今日みたいに自宅から投稿することは滅多になかった。仕事中に書いた銀英伝人物評のあいまいな部分を家に帰ってから読みなおして補足するのはしょっちゅうやってるんだけど。

しかも書いている量が半端じゃない。別に自慢にもならない話だけど、今まで自分のHP(テキスト系だから文章の水準は低いけど文字数はかなり多い)で書いていた文章量にそのうちせまるような勢いだ。
だけどいっこうに文章力が上がらないのは悩み・・・仕事でも報告書とかマニュアルを書いていると自分の文章力の無さが情けなく感じてしまうときがあったりなかったり。まぁたいして閲覧している人はいないブログだからほんとにメモ書き感覚で書いちゃっているけど、メックリンガーの才能の100分の1くらい欲しいものだ。

銀英伝人物評も次回でついに50回…ある意味少しも誇れない記録だけど。とある重要人物の評が出張で書きかけになったから月曜は早めにアップしますか。

銀英伝人物評49<ハインリッヒ・フォン・キュンメル>

2004年08月25日 13時40分09秒 | 銀英伝人物評
キュンメル男爵家の20代目当主。ところが生まれた時から先天性代謝異常という病気を抱えていたため、明日をも知れぬ命をひきずったまま成長する。外見は目鼻立ちは端正だが、肉付きが薄く血色も悪い。
両親がいないため、叔父であるマリーンドルフ伯が後見人としてキュンメル家の財産を管理していたが、それを横領するようなことはマリーンドルフ伯はしないため、これが彼の名声を高める一因ともなっている。
キュンメル男爵の従妹のヒルダは、昔から彼の面倒をよく見ていて、願いはなんでもかなえてあげようとしている。

ただベッドに臥せっているだけの人生を送らざるを得ない彼は、何かを為してから死にたいと願い、地球教の陰謀に荷担する。そしてキュンメル事件が起きるが、この時のラインハルトとの会話が面白い。
ラインハルト自身は延命とか、生命を守ること自体を目的とする言動は絶対に行わないため、いくらキュンメル男爵が脅迫してもまったく効果がない。殺すなら勝手に殺せ、という態度。会話が脅迫する側とされる側のものになっていない。
ラインハルトのペンダントに興味を持ち、それを見せるよう要求するが、断固として拒むところは完全に子供のようだ。シュトライトとキスリングが渡すよう進言するが彼らの慌てッぷりも面白い。結局奪い取ろうとしたが逆に殴られたため、暗殺に失敗し、死んだ。この時、隠れていた地球教徒が現れてラインハルトを殺そうとするが、それは次席副官リュッケによって阻止された。こいつが目立ったのってこれくらいかも。

ちなみに首謀者が地球教だと判明していたため、キュンメル男爵自身の罪は問われることはなかった。

銀英伝人物評48<シュザンナ・フォン・ベーネミュンデ>

2004年08月25日 10時47分44秒 | 銀英伝人物評
子爵家の令嬢。のちに侯爵夫人。たぶん15、6歳の時にフリードリヒ4世の後宮に納められる。原作の本伝には登場していない。皇帝の寵愛を受け、子を身篭るが流産してしまう。これはブラウンシュヴァイク公が医師を買収して生まれたばかりの赤子を殺させたという説が有力で、彼女自身も信じている。その後も流産を繰り返し皇帝の寵愛は去った。

やがてアンネローゼが後宮に納められると、皇帝から見向きもされなくなった孤独な生活が始まる。そして皇帝の寵愛を奪ったと信じているアンネローゼを激しく憎むのだが、さすがに皇帝の寵姫に危害を加えるわけにはいかないので、代わりにラインハルトを殺そうと、宮廷医師グレーザーを使って数々の陰謀を企む。外伝で言うと「白銀の谷」「黄金の翼」「決闘者」など。

実のところ、アンネローゼがいなくなったところでベーネミュンデに寵愛が戻ることはないのだが(ラインハルトも理解に苦しんでいた)、本人はそれを信じて疑わない。リヒテンラーデ侯爵ですらこの女を持て余してしまい、新無憂宮を出るよう言われたときのベーネミュンデの反応は面白い。

ベーネミュンデの腹心の医師グレーザーは、別に彼女に忠誠を誓っているわけではなく、単に彼女の持つ財産が目当てであり、最後のほうは道連れにならないよう色々影で画策していた。

ラインハルトの策謀によって、不名誉な噂を流されたため、追い詰められたベーネミュンデはアンネローゼ自身を害そうとするが、ラインハルトやロイエンタール、ミッターマイヤーの活躍によって失敗に終わる。そして皇帝から自裁を賜る。

典礼尚書に、アンネローゼが死んだため皇帝から呼び出しがあると偽られたベーネミュンデは歓喜して身支度をして出立した。ところが行き先は別の場所。しかも自分が毒を仰いで死ななければならないと告げられた彼女は、逆切れしてブラウンシュヴァイク公をたちを弾劾、さすがのラインハルトも思考がストップするほどの修羅場となった。その際ラインハルトは唾をかけられるのだが、その唾から香り玉の匂いがした(宮中の女性の嗜みとして香り玉を口に含んでいた)のを嗅いで、ほんのちょびっと憐む。

ベーネミュンデの死に対して、皇帝も憐れむが、その時のセリフは達観していて面白い。でもこの人の人生は可哀想だなぁ。後宮に納められたときはまったく正反対の性格であったというから、彼女の陰湿さやヒステリックなところは後天的なものに違いないのだが、それにしても女の嫉妬は恐ろしい。

読書感想文【空中ブランコ】

2004年08月24日 17時40分58秒 | 読書感想文
最近奥田英朗の『空中ブランコ』を読みました。実は結構前に実家から送られてきていたけど、ずっと忘れていた。

空中ブランコ

奥田英朗は『最悪』以来読んでいなかったのだが、コンスタントに面白い小説を書く作家であることは知っていたし、何よりも直木賞受賞作ということで、結構期待した。

で、これが期待をはるかに超える面白さ。とりあえず簡単にストーリーを書いてみよう。

神経科医伊良部一朗は変人の部類に入るような型破りの医者。患者が来ると、話をまじめに聞いているんだか、いないんだかわからない態度をとるので(茶化すようなことばかり言う)、患者たちはこんな医者あてになるかよ、と思うのだが気が付くと伊良部のペースに巻き込まれていて、最後はいい感じに解決する。というパターンの連作短編集。

表題作の「空中ブランコ」はサーカス団でも古株の男が、空中ブランコで何度やっても失敗するようになる。周囲の団員にもだんだん打ち解けられなくなったりしてきた。はじめは原因がわからず、とりあえず伊良部のところに行くが、ビタミン注射を打つだけでたいした治療をしない。しかも伊良部が空中ブランコの話を面白がって、本番前のサーカスにやってきて勝手に空中ブランコの練習をはじめだした。それも毎日。
周囲の団員はこの伊良部の愛嬌のある体型(ものすごい太っている)と人柄によって打ち解けて、積極的に彼の練習を手伝うようになり、ついには本番に出れるくらいにまで覚えさせた。
一方、原因は空中ブランコの新しいパートナーがわざと自分の時は失敗させてると考えた患者の方は決定的証拠を撮ろうと、妻にパートナーをビデオ撮影をさせた。ところが妻が撮ったのは演義中の患者。そしてそのビデオを見た患者は…

といった感じ。中学生でももっとまともだろうっていうくらいひどい文章だ…。
他には先端恐怖症のヤクザの話の「ハリネズミ」、義父のかつらが気になって仕方なく、いつかとんでもないことをしでかすんじゃないかと恐怖にかられる医者の話の「義父のヅラ」、ノーコンになったプロ野球選手の話の「ホットコーナー」、小説を書けなくなった小説家の話の「女流作家」がある。