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湘南でゆるゆら暮らしココロ赴く先へガシガシ出かけるライター山秋真が更新。updated by Shin Yamaaki

深化する『当事者主権』:『ニーズ中心の福祉社会へ』を読み解く

2010-03-26 23:59:20 | 本/映画/音楽/番組
「『ニーズ中心の福祉社会へ:当事者主権の次世代福祉戦略』
(上野千鶴子・中西正司編、2008年)を読み解く」がとどいた。



同タイトルの公開シンポジウムを、
東北大学グローバルCOEプログラム
「グローバル時代の男女共同参画と多文化共生」の
東京大学社会科学研究所連携拠点が、
研究シリーズの第2号としてまとめたもの。

「はじめに」から、拠点リーダーの大沢真理さんの言葉をひこう。

  *******
  性別や年齢、出身地、障がいの種類・有無や国籍などにかかわりなく、
  だれもが人格と個性を尊重され、フルに参加できる社会、
  そのような社会を実現する条件は何か。

  GCOEプログラム「グローバル時代の男女共同参画と多文化共生
  …は…研究の成果を広く社会に還元し、貧困や格差による社会的排除、
  人口高齢化、根強いジェンダー不平等といった社会問題に対して、
  有効な公共政策の策定に寄与する。

  「社会的文化的性別」と訳されるジェンダーは、文化、エスニシティ、
  社会階級、年齢、障害の有無などによって、多様な形態をとることが
  知られており、ジェンダー概念には人間の多様性への洞察が
  組み込まれている。本GCOEプログラムが男女共同参画と
  多文化共生をテーマとするゆえんである。
  *******

というわけで、東京大学弥生講堂一条ホールで、
東京大学ジェンダーコロキアム
立命館大学生存学センターGCOE「生存学」、
そして東北大学GCOE東大社研連携拠点との共催で
2009年1月20日にひらかれた公開シンポジウム。

内容は、2008年に上野千鶴子さんと中西正司さんが編んだ
『ニーズ中心の福祉社会へ:
当事者主権の次世代福祉戦略』

各章についてコメンテーターによる論評+執筆者のリプライ、
そしてさいごに総合討論というもの。



この本の目次と執筆者は以下のとおり。

1章 当事者とは誰か?
      上野千鶴子(東京大学大学院教授)
2章 ケアサービスシステムと当事者主権 
      笹谷春美(北海道教育大学教授)
3章 高齢者のニーズ生成のプロセス 
      齋藤暁子(財団法人母子愛育会研究員)
4章 ニーズはなぜ潜在化するか 
      春日キスヨ(松山大学教授)
5章 福祉多元社会における協セクターの役割 
      上野千鶴子(東京大学大学院教授)
6章 福祉事業における非営利・協同セクターの実践 
      池田徹(社会福祉法人生活クラブ理事長)
7章 3つの福祉政府体系と当事者主権 
      大沢真理(東京大学社会科学研究所教授)
8章 これからの社会保障政策と障害福祉 
      広井良典(千葉大学教授)
9章 楽観してよいはずだ 
      立岩真也 (立命館大学大学院教授)
10章 当事者主権の福祉戦略 
      中西正司(全国自立生活センター協議会代表)

このなかの「4章 ニーズはなぜ潜在化するのか
高齢者虐待問題と増大する「息子」加害者~」の
コメンテーターを、わたしはつとめさせていただいた。

『ニーズ中心の福祉社会へ』は、上野さんと中西さんが
2003年に世におくりだした共著『当事者主権』から5年、
各分野の論者をあつめて研究会をつくり切磋琢磨した成果だという。

「当事者主権の次世代戦略、社会改革のためのデザイン・
ビジョン・アクションのシナリオ」となっている。

『当事者主権』は、わたしにとって上野さんとの出会いの本。
友だちに誘われて出かけていったのが、
たまたまこの本の書評セッションだった。
せっかくだからとその場で1冊かいもとめ、後日よんでみた。

女性運動も障害者運動もよくしらなかったが、
すごく示唆に富んで刺激的だった。なかでも、
「問題」を当事者の視点からとらえなおす姿勢は特に。
さっそくもう1冊購入して、珠洲の友だちにおくったほど。

せっかくなので、この機会に目次を詳しくご紹介。



  ***  ***  ***
序章 当事者宣言  
1 当事者主権とは何か/2 当事者であること/3 自立支援と自己決定
4 当事者になる、ということ/5 当事者運動の合流
6 専門家主義への対抗/7 当事者学の発信/8 「公共性」の組み替え  
     
1章 当事者運動の達成してきたもの  
1 当事者運動の誕生/2 自立生活運動の歴史
3 「自立」とは何か?/4 自立生活センターの成立
5 自立生活支援という事業/6 当事者の自己決定権とコミュニケーション能力
7 介助制度をどう変えてきたか/8 自立生活運動の達成してきたもの
9 新たな課題  
     
2章 介護保険と支援費制度  
1 介護保険が生まれてきた背景/2 介護保険の老障一元化をめぐって
3 支援費制度のスタート/4 介護保険と支援費制度の違い
5 育児の社会化をめぐって  
     
3章 当事者ニーズ中心の社会サービス  
1 属人から属性へ――自分はそのままで変わらないでよい
2 だれが利用量を決めるか?/3 だれがサービスを供給するか?
4 社会参加のための介助サービスをどう認めるか
5 家族ではなく当事者への支援を  
     
4章 当事者たちがつながるとき  
1 システムアドボカシー/2 縦割りから横断的な連携へ
3 ノウハウの伝達と運動体の統合/4 組織と連携
5 適正規模とネットワーク型連携/6 法人格の功罪
7 事業体と運動体は分離しない
8 採算部門は不採算部門に対して必ず優位に立つ  
     
5章 当事者はだれに支援を求めるか  
1 障害者起業支援/2 介護保険と市民事業体の創業期支援
3 政府・企業・NPOの役割分担と競合/4 規制緩和と品質管理
5 雇用関係/6 ダイレクト・ペイメント方式
7 ケアワーカーの労働条件  
     
6章 当事者が地域を変える
1 福祉の客体から主体へ、さらに主権者へ/2 家族介護という「常識」?
3 施設主義からの解放/4 精神障害者の医療からの解放
5 脱医療と介助者の役割/6 医療領域の限定
7 サービス利用者とサービス供給者は循環する  
     
7章 当事者の専門性と資格
1 ヘルパーに資格は必要か/2 ピアカウンセラーの専門性
3 資格認定と品質管理――フェミニストカウンセリングの場合
4 ケアマネジメントか、ケアコンサルタントか
5 ケアマネジャーの専門性と身分保障/6 成年後見制度と全人格的マネジメントの危険性
7 新しい専門性の定義に向けて  
     
8章 当事者学のススメ  
1 女性運動と女性学/2 性的マイノリティとレズビアン/ゲイ・スタディーズ
3 患者学の登場/4 自助グループの経験/5 精神障害者の当事者研究
6 不登校学のススメ/7 障害学の展開  
     
おわりに 自己消滅系のシステム
  ***  ***  ***

2003年の刊行後も変化・深化しつづけていることに、
『当事者主権』の意義がみとめられるように思う。

今回、「『ニーズ中心の福祉社会へ:当事者主権の
次世代福祉戦略』…を読み解く」がとどいたのを機に
あらためて「当事者」についても考えたい。
原発問題を考える上でも、おおいに参考になるから。
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