少し偏った読書日記

エッセーや軽い読み物、SFやファンタジーなどの海外もの、科学系教養書など、少し趣味の偏った読書日記です。

朝霧

2022-10-08 07:00:00 | 読書ブログ
朝霧(北村薫/東京創元社)

北村薫の「円紫師匠と私」シリーズの第五巻。

第三巻『秋の花』は、このシリーズにしては珍しく、女子高生の墜落死をめぐる謎が主題。第四巻『六の宮の姫君』は、このタイトルの芥川龍之介の短編が書かれた意図を推理するビブリオミステリ。大学生活も三年、四年と進み、「私」の成長物語は続いているが、それとは別の顔を併せ持つ長編。作品の紹介のみにとどめたい。

で、この作品は、卒論提出後から、憧れの職業であった出版社の編集者として活躍するまでの、一応の完結編に当たる物語で、第二巻と同様、「私」の周囲で起こる3つの謎を取り上げる。

1つ目は、俳句の世界を描きつつ、俳人でもある校長先生の、本屋での興ざめな行為の謎を解く。(美人の姉の結婚話が出てくる。)2つ目は、リドル・ストーリー(結末を示さない物語)をテーマに、男と女の間の暗い心理を描く。(職場の先輩の結婚話が出てくる。)3つ目は、祖父の日記に遺された暗号を解読する話。その重要な鍵には、師匠の落語の演目もからむ。(「私」の大人の恋が暗示される。)

一応の完結編、と書いたが、この本の十数年後に『太宰治の辞書』が出ている。「私」は結婚し、子どもがいて、出版社で編集の仕事も続けている。当初からの構想、というよりは、後日譚として読者への意外なプレゼントという色合いが強い。短編集だが、本に関する謎に特化しており、このシリーズの紹介は、第五巻をもって打ち止めとしたい。

シリーズを通じて、印象に残ったこと。

「日常の謎」というけれど、気付かなければ、そのままやり過ごされてしまう。謎に気付くためには、それに応じた知識や経験、観察眼が必要だ。水を飲むように本を読む「私」は、第六巻では、少なくとも本に関しては、円紫師匠と同等の域に達したのではないか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿