2009年3月に別ブログに書いたものを再編集して載せます。
『せどり男爵数奇譚』というタイトルの本があります。今は亡き作家、梶山季之の作品です。
1974年桃源社刊
先日放送された「ビブリア古書堂の事件簿」にも、この本の元版が登場していました。
元版が絶版になったあと、河出文庫、夏目書房、ちくま文庫からと版元の変遷を重ねていますが、現在も読むことが出来ます。
タイトルにもなっている「せどり」がどういう意味なのかというと、古書の世界の用語で、セリで競り取るから「競取り」という解釈もありますが、価値がわからずに安く売っているお店から買って、その本の価値を認めているお店で高く買い取ってもらい、その差額で生活している「せどり屋」と言われる人たちの行為を、本の「背」(書名)で抜き取ることから、「せどり」と言っています。
最近はスペースの問題からか、ボリュームのある全集はひところに比べると、かなり安くなりました。全集は、毎月刊ないし隔月刊という配本パターンで、完結までに時間がかかるというのが一般的でした。買い始めたのはいいけれど……と、最初の方に配本された巻は発行部数も多いのですが、次第に買い揃えるのをやめたり、忘れたりで、売れ行きが落ちてきます。それに合わせて発行部数を減らさざるを得なくなります。最終回の配本は、最初に比べると、かなり部数が落ちることがあります。
それを後になってから、全巻揃いで買わずに、1冊ずつ買い集めていくのは、古本屋巡りの楽しいところでもありますが、最終回配本の巻の数が少ないわけですから、探しても見つけにくいのは当然です。その探しにくい巻を「キキメ」と呼びます。
全集で読もうと思って全巻揃いの値段を見て、あまりに高いので、その隣に「○巻1冊欠」という、揃っている全集に比べると、かなり安いものがあったときに、「1冊ぐらいあとから探せばいいから、安いほうを買おう」と、つい思ってしまいます。
ところが、その欠けているのが「キキメ」だと、せどり屋が鵜の目鷹の目で探しているわけですから、よほどの幸運に恵まれない限り、見つけることは出来ません。
せどり屋が狙うのは全集のキキメだけではなく、有名作家が無名時代に別のペンネームで出版した本、いったんは世に出たけれども、さまざまな理由で回収あるいは発売禁止になった本、市販本とは別に何かの記念で配られた本など、世の中に出回る絶対数が少ないものがありがたがられる傾向にあります。情報に精通すればするほど、面白く、奥行きのある「仕事」ですね。