雪女伝説

1995年に出版された「雪女伝説」（高橋光子著）を読みました。


サブタイトルに「謎の作家・森万紀子」とありますが、この森万紀子という人は酒田出身の女流作家で
芥川賞の候補に4回、1980年には「雪女」という作品で泉鏡花文学賞を受賞しています。
しかし、恐らく多くの人はその名を知らないでしょうし、酒田に生まれ育った人でもほとんど知らないというのが現実のようです。
（かくいう私も先日まで知らなかった・・・）

著者の高橋光子さんは若手の作家だった昭和40年代に彼女と交友があり、その当時の記憶や手紙から、その時代の彼女の姿
そして、交友のあった若手女流作家たちの姿を描き出しています。
森万紀子さんは５７歳で亡くなっており（東京のアパートで孤独死していた）、しかも寡作であったことも彼女を忘れられた存在にしてしまっている原因かも知れません

本書の最後の項で、著者の高橋光子さんは酒田を訪ね、高校時代の彼女の同級生、そして医者をしている実兄に話を聞いています
それによると、彼女は昭和9年に父親が医者をしている裕福な家の生まれで、酒田の中心部の大きな屋敷に住んでいたようで
↓の「商工中金」そして隣の「のざきクリニック」このあたりに彼女の生家があったようです。


彼女が６歳の時に父親が亡くなったものの、母親もまた裕福な家の生まれだった故に浪費を重ねたようで、屋敷の半分を証券会社に貸し
さらに兄を医者にするべく家屋敷を担保にお金を借りていたようです。
やがて彼女は市内随一の進学校である「酒田東高校」へ進学しますが、特に目立った存在ではなかったものの
同級生には、後に日本を代表するシャンソン歌手となる岸洋子さん、悪役俳優として映画で活躍、ＴＶの「探偵物語」でもお馴染みの成田三樹夫さんがいます
この三人が同級生というのはちょっとした奇跡ともいえますが、三人とも50代で亡くなっている（成田三樹夫さんが55歳、岸洋子さんが57歳、そして森万紀子さんも57歳）というのも、何がしかの因縁を感じます。さらに、成田さんと森さんのお墓は同じお寺（泉流寺）にあるというのも、何かしかの縁のようなものを感じさせる事実ではあります。

やがて昭和28年に高校を卒業した彼女は、母方の親戚筋の経営するスーパーマーケットに就職、周囲はお嬢様育ちの彼女が店員などできるかと心配したようですが
味噌の計り売りなどをして真面目に働いていたようです。しかし、この頃には母親は病気で、家屋敷も借金のため人手に渡ることが決まっていたようで
やがて母親が亡くなると、髪を染めて港のほうで酒を飲んで荒れているという噂が聞かれるようになります。
その後彼女は神戸の親戚に引き取られ、それ以降のことははっきりしません。
そして月日は流れ、昭和40年に森万紀子という名前で書いた「単独者」という作品で芥川賞候補になったことで、新進の女流作家として名が知られるようになります。

ちなみに、昭和28年当時のことを思うと、酒田市内にスーパーマーケットと名の付く店は１店舗しかなく、「ト一屋中町店」でほぼ間違いないと思われます。（今年95歳の会長さんに聞いてみたいと思っています）
↓が当時の「中町店」です

↓の画像は借り物ですが、昭和40年代の中町店です（中心商店街だけにすごい賑わいです）

そして昭和51年の酒田大火のあとに建替えられた現在の「ト一屋中町店」です


ついでながら、この近くには淀川長治氏をして「世界一の映画館」と言わしめた「グリーンハウス」がありました
↓は大火の前年のグリーンハウス（画像は借り物です）で、この翌年の10月29日、大火の火元となり焼失しています。