漫画での表現、事実かどうか、医学的、科学的観点からの見解などが取材調査されて表現されることは最低限度の義務ではと思います。
事故、放射能汚染で住民がどのようなことで困り、生活再建、医学上の問題が発生するかは、漫画の取材、作者が追うべき問題、課題ではなく、政府、厚生労働省、福島県などが責任を持って、追跡し必要な情報提供をすべきものです。また、被災自治体の住民が、そのような訴えを行っているのであれば、その聞き取り、実態調査を行い、必要な医学的調査も必要だと思います。そのことを行えば、このような問題は解決することと思います。
何回も、訴えてきましたが、東京電力と自民党政権、経済産業省の政治責任、東京電力経営陣の刑事責任追及がないことこそが最大の問題です。同時に、このようなあらゆることをあいまいにしながら、一番厳しい検査、安全基準を通過した原発は再稼動するのだ。また、再稼動をしなければ困るなどの自治体、安倍、自民党政権の唯我独尊的な動きこそが問題にされなければならないと思います。
<毎日新聞メデイア時評>美味しんぼ
小学館発行の漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」の連載漫画「美味(おい)しんぼ」が物議を醸している。話題になっているのは、4月28日に発売された号で、東京電力福島第1原発を視察した主人公らが、鼻血を出すなど、体調不良を訴えるシーンだ。同誌の編集部には読者からの問い合わせが殺到し、ネット上でも大きな反響が広がった。
作品中では鼻血が放射線の影響だと断定しているわけではない。が、作中に実在の人物として登場する井戸川克隆・前福島県双葉町長は「私も出る」「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と語っている。
ともあれ、虚心に作品を読む限り、作者は、主人公らの体調悪化の原因が放射線の影響であることをかなり誘導的に示唆している。そして、漫画作品にとって重要なポイントは、「断定しているか否か」ではなくて、「どんな印象を与えるか」なのである。
当作品について、4月29日の毎日新聞は、スピリッツ編集部と井戸川前町長に取材した記事を掲載している。記事の末尾に、放射線防護学を講じる2人の専門医のコメントを載せた、全体として、慎重な言い回しの文章だ。
これに対して5月3日の東京新聞は「ニュースの追跡」欄で、「確かなのは『分からない』」と題した、「美味しんぼ」の描写を擁護する論調の記事を掲載した。
さらに5月4日の福島民報は、Q&Aのコーナーを使って、「放射線被ばくで鼻血は出るのか」という真正面からの問いを設定している。回答者は、県の放射線健康リスク管理アドバイザーである長崎大教授の高村昇氏。回答の内容は「鼻血は種々の原因によって起こることが知られていますが、少なくとも福島県内における鼻血が放射線被ばくによるものであるとは考えられません」といういたって明快なものだ。
三つの記事を読み比べて思うのは、震災後3年あまりを経て蓄積された放射線の知識について、新聞は、そろそろ踏み込んだ記事を書くべき時期に来ているということだ。その意味で東京新聞の記事は論外。福島民報は、作品とは別に鼻血に論点を絞った点で冷静。毎日新聞はバランスの取り方において妥当だったと評価できる。(東京本社発行紙面を基に論評)
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■人物略歴 ◇おだじま・たかし 1956年東京・赤羽生まれ。早稲田大教育学部
<福島民報>
小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」に掲載された漫画「美味(おい)しんぼ」で、東京電力福島第一原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出したり、登場人物が「今の福島に住んではいけない」と発言したりする描写が掲載されたことについて、県は12日、「本県への風評被害を助長するもので断固容認できず、極めて遺憾」との見解を発表し、ホームページ(HP)に反論文を掲載した。
県はHPで「登場する特定の個人の見解が、あたかも福島の現状そのものであるような印象を読者に与えかねない表現」と指摘。「県民をはじめ、本県を応援する方々の心情を全く顧みず、深く傷つけるもの」と懸念を表明した。
県は4月末、小学館から「鼻血や疲労感の症状に放射線被ばくの影響が考えられるか」などの質問に回答するよう求められたことを明らかにし、7日付で小学館に対し「一般住民は(鼻血などの)急性放射線症が出るような被ばくはしていない」などと反論する申し入れを行った。世界保健機関や国連科学委員会の報告書を引用し、「将来にも被ばくによる健康影響の増加は予想されない、との影響評価が示されている」と説明。科学的知見や丁寧な調査に基づいた偏らない客観的な表現にするよう、強く申し入れた。
<毎日新聞4月29日記事>漫画「美味しんぼ」
小学館が28日に発売した週刊誌「ビッグコミックスピリッツ」5月12、19日合併号の人気漫画「美味(おい)しんぼ」(雁屋哲作・花咲アキラ画)で、東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが鼻血を出す場面が描かれ、読者から問い合わせが相次いでいることが分かった。同誌編集部は「綿密な取材に基づき、作者の表現を尊重して掲載した」などとするコメントを発表した。
漫画の内容は、主人公である新聞社の文化部記者の山岡士郎らが取材のために福島第1原発を見学。東京に戻った後に疲労感を訴えて鼻血を出し、井戸川克隆・前福島県双葉町長も「私も出る」「福島では同じ症状の人が大勢いる。言わないだけ」などと発言している。
一方で、山岡を診察した医師が「福島の放射線とこの鼻血とは関連づける医学的知見がありません」と答える場面もある。
同誌編集部はホームページに掲載したコメントで「鼻血や疲労感が放射線の影響によるものと断定する意図はない」「風評被害を助長する意図はない」などとしている。
原作者の雁屋氏は今年1月、豪州在住の日本人向け情報サイトで2011年11月〜13年5月に福島第1原発の敷地内などを取材したことを明かし、「帰って夕食を食べている時に、突然鼻血が出て止まらなくなった」「同行したスタッフも鼻血と倦怠(けんたい)感に悩まされていた」などと語っていた。
井戸川氏は28日の毎日新聞の取材に「雁屋さんから取材されて答えたことがそのまま描かれている。(描写や吹き出しの文章は)本当のことで、それ以上のコメントはない」と話した。
「美味しんぼ」は1983年に連載開始。グルメブームの火付け役となったともされる。
◇被ばくと関連ない
野口邦和・日本大准教授(放射線防護学)の話 急性放射線障害になれば鼻血が出る可能性もあるが、その場合は血小板も減り、目や耳など体中の毛細血管から出血が続くだろう。福島第1原発を取材で見学して急性放射線障害になるほどの放射線を浴びるとは考えられず、鼻血と被ばくを関連づけるような記述があれば不正確だ。
◇ストレスが影響も
立命館大の安斎育郎名誉教授(放射線防護学)の話 放射線影響学的には一度に1シーベルト以上を浴びなければ健康被害はないとされるが、心理的ストレスが免疫機能に影響を与えて鼻血や倦怠感につながることはある。福島の人たちは将来への不安感が強く、このような表現は心の重荷になるのでは。偏見や差別的感情を起こさない配慮が必要だ。