原子力発電がコスト的に安い電力と言うことが、いかにまやかしであるかがわかる論議です。このような原子力発電所を稼動させることなく、廃炉にして、使用済み核燃料を一切出さないようにすることこそが真の対策であることを、この三者の主張を見ても非常によく分かります。この点をごまかした、稼動を前提とした議論、検討はどのようなものであったとしても論理的にはごまかしになり、最終処分場自治体、住民の理解は得られないことは当然のことです。
トイレがないマンション、住居がないように、使用済み核燃料の保管場所がなくて、再稼動、使用済み核燃料を出し続けるような政策、電力会社の無責任さにはあきれるほかありません。
<毎日新聞:論点>核のごみ 最終処分への提言
原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分地選びが難航している。政府は公募方式を改め、自ら「核のごみ」の行き先探しに乗り出した。「トイレなきマンション」とされる原発のアキレスけんは解消できるのか。
◇市民の信頼得る努力必要−−鈴木達治郎・前原子力委員長代理
今後原発を再稼働するか、ゼロにするかといった議論にかかわらず、私たちは「核のごみ」問題からは逃げられない。にもかかわらず、高レベル放射性廃棄物の最終処分地は10年以上かかっても決まらない。原因は、政府が地層処分についての説明責任を怠っていたことにある。早急に候補地を絞り込むため、国はもっと前面に立って地層処分の科学合理性を説明すべきだ。
地層処分は、高レベル廃棄物をできるだけ私たちの生活環境から遠ざけ、将来的には人の管理が不要になるように地中深くの地層に委ねるのが狙いだ。よく、「危険な放射性廃棄物を地中に放置するのは無責任だ」「10万年も管理できるのか」との疑問が寄せられる。しかし、放射性物質はもともと地下にあっただけに、放射性廃棄物を地中に埋めるのは合理的だ。地上に置いたままにすることと、地中深くに埋めることのどちらが危険かをもっと議論してほしい。
一方、こうした科学的説明と同時に、地層処分方式への社会的信用がなければ候補地選定作業は再び迷走するだろう。政府は昨年末、国自体が複数の候補地を絞り込む方針を示したが、信用を得るためには、こうした選定プロセスを監視する第三者機関の役割が必要不可欠だ。
しかし、これまでのように政府の方針に追随するだけの形式的な第三者機関であってはならない。独立した意思決定ができる専門性を有しているだけでなく、財源や権限を法的に担保する必要もある。候補地選びに成功したスウェーデンでは、政府に助言・勧告する第三者機関「原子力廃棄物評議会」(KASAM)がある。一見遠回りかもしれないが、「真の第三者機関」の創設こそ、原子力政策全体の信頼回復につながる近道だ。
一方、「捨て場所」だけでなく「捨て方」も見直す必要がある。政府はすべての使用済み核燃料を再処理し、残った高レベル廃棄物をガラスに固めて地層処分する方針だが、こうした「全量再処理」ではなく、再処理せずにそのまま埋める「直接処分」の検討も不可避だ。
国内外に約44トンの余剰プルトニウムがあるが、青森県の使用済み核燃料再処理工場が稼働すればさらに増えるだろう。政府は3月の核安全保障サミットで、核兵器に転用可能な分離プルトニウム在庫量の「最小化」を国際公約したが、「全量再処理」を掲げる限り、公約が看板倒れになる恐れもある。
再処理に適さない使用済み核燃料も今後増える可能性がある。政府はプルトニウム消費のため、通常の原発でウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料を燃やす方針だが、使用済みMOX燃料は発熱量が高く、再処理の見通しは立っていない。「直接処分」も検討し、処分計画の柔軟性を確保すべきだ。
私が原子力委員長代理を務めて得た最大の教訓は、政策にたとえ合理性があったとしても、「人間性」を欠いたままでは前に進まないということだ。特に原子力政策では、被災した福島県民の立場を忘れていないか、常に振り返ってほしい。これまでと同じような「推進ありき」の原子力政策では、候補地選定はおぼつかない。市民との真摯(しんし)な対話を積み重ねた「血の通った政策決定」でなければ、国民の信頼を得られないことを政府は肝に銘じるべきだ。
◇「暫定保管」取り入れ再考を−−今田高俊・東京工業大名誉教授
そもそも、将来原発がどの程度の割合を占めるのかという国のエネルギー政策全体の方向性も示さずに、「ごみが出たから受け入れてくれ」と言っても国民の理解は得られない。従来の高レベル放射性廃棄物の処分方法について、「総量管理」と「暫定保管」という二つの考え方で抜本的に見直すことが必要だ。
日本が火山・地震大国であることを考えると、今の科学技術のレベルでは深い地層に埋めてしまう処分はリスクが大きすぎる。2010年に原子力委員会の審議依頼を受けた日本学術会議の検討委員長として2年間、この問題を検討してきた。しかし、委員会のヒアリングで1万年先まで大丈夫だと保証できる専門家はいなかった。
暫定保管という考え方は、これを受けて新たに作ったものだ。今後数十年から数百年間のモラトリアム(猶予)期間を設け、その間に科学的な研究や国民の合意を得られるような努力を進める。その間は、廃棄物は回収可能な状態で安全に保管する。いろいろな課題が残っている今、地層処分を決めてしまうことなく将来世代に意思決定の自由度を確保する方法だ。
保管場所は国内に複数必要になる。電力会社が努力して立地すべきだ。政府は4月に決定したエネルギー基本計画で「回収可能性」という言葉を盛り込んだが、地層処分後にトラブルが発生すれば、廃棄物を回収するのは困難。技術的、制度的な担保がなければ無責任な言葉だ。
一方、もう一つのキーワードである総量管理は、できるだけ廃棄物が出ないよう技術的な工夫をしつつ、廃棄物の発生量の上限を設定することだ。廃棄物は放っておけば無制限に増える。それでは国民は絶対に信頼しない。危険な廃棄物を処分せず保管し続けるのだから当然すべきことであり、暫定保管・回収可能性とセットで考えなければならないが、総量管理には政府はなぜか言及していない。
難航する処分場の立地選定について、政府は「科学的有望地」を選んで国が自治体に申し入れる新たな方法を打ち出したが、こうした民主主義に反する「上意下達」では、だめだ。町長が勝手に誘致に名乗り出た揚げ句に辞職し、出直し町長選で敗れた07年の高知県東洋町と同じ。住民が議論して、下から積み上げるものでなければ住民は信用しない。
「信頼」というものが、何より重要だということをよく認識すべきだ。現状では処分場でなく、処分のための研究施設でさえ強い反対がある。最初のウソで信頼を崩してしまうと、すべてが疑心暗鬼で見られ不信が増幅し、もう信頼を取り戻せない。合意形成には中立公平な第三者機関も必要だ。利害関係や個々の価値観を排除し、科学的根拠に基づいて判断できる専門家集団なら圧力に屈さず誠実な議論ができる。委員会もその方針で運営した。10月をめどに追加提言もまとめる予定だ。
受益者負担の問題もこれを機に議論すべきだ。例えば東京に処分場を造るにはどんな条件が必要かを真剣に考えてみる。受益者側の真剣な取り組みが、地方にとっては信頼のもとになる。交付金などカネで解決する発想でなく、候補地に重要な政府機関を移して技術者や官僚が移住するなど時間をかけ対話を重ねてゆくことが必要だ。
◇埋めるよりよい方法ない−−杤山修・経済産業省地層処分技術ワーキンググループ委員長
地層処分の基本的な考え方は「隔離」と「閉じ込め」。生活環境から遠ざけ、たとえ漏れたとしても時間がかかってその間に放射性物質が崩壊してしまうよう閉じ込めておくということだ。1980年代にこの概念が固まり、99年には日本でもできると結論づけられた。火山や地震があるからだめと思いがちだが、地中の揺れは安全性にあまり影響しない。火山や活断層、土地の隆起が大きな場所などを避ければ良く、処分場の適地は国内に広く存在する。(官僚の傲慢さが良く出た表現)今月、経済産業省の地層処分技術ワーキンググループ(WG)で、それを再確認した。
暫定保管のような考え方が出てくるのは、人の手を離れ制御できなくなるとの不安が強いからだろう。しかし、隔離せずに生活環境の中に置いておく方がはるかに危険だ。人は永久に管理できない。処分という言葉は放り出すような印象を与えるが、人が管理の手を離しても大丈夫な状態にするものだ。管理を考えれば、おのずと地層処分に似た方法に行き着くだろう。
高レベル放射性廃棄物を閉じ込めるガラス固化体が当初に持つ放射能のうち、99%近くはセシウムとストロンチウム。これらは水に非常に溶けやすいが、約30年で半減し、1000年でほぼなくなる。この期間なら地上に置いても何とか見張れるだろうが、その間の災害や事故、テロなどを考えると、地下水に接触しないように厚い金属容器に入れて埋める方が安全だ。
残り1%の放射能は、数万年後に1万分の1にまで減るが、それでもウラン鉱石数千トン分が固化体1本の中にある計算だ。ネプツニウムなど残っている放射性物質は長寿命で、ほぼ永久に残る。10万年で安全になるわけではなく、永遠の隔離が必要だ。だが水に溶けにくく、深い地下に埋めれば地表近くに漏れ出てくることはほぼあり得ない。
政府はこうした長寿命物質を減らす「減容化」の研究を高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)で進める方針だ。夢のある研究だが、材料やコストなど課題は多く、完全に消滅させることはできないため隔離の重要性は変わらない。放射能の大部分を占め、発熱に大きく寄与するセシウムとストロンチウムは関係なく、処分場が小さくなることはない。
再処理は使用済み核燃料の中に残ったウランやプルトニウムに取り出す価値があるから行うのであり、処分のためではない。使う価値がないなら再処理せずにそのまま埋める「直接処分」の方がいい。核燃料を溶かして一度危険な状態にする上、捨てにくく技術的課題が多い超ウラン元素(TRU)廃棄物が出るなど、再処理は不利なものだ。
既に大量の放射性物質がある今、総量管理を考えても、処分の必要性や方法は変わらない。廃棄物をアキレスけん のように扱って原子力推進、反対の議論をしていると、当の廃棄物問題は放置されてしまう。立地が難航してきたのは公募制では誘致する自治体の首長が科学的なことも含めてすべて説明しなければならないからであり、モラトリアム(猶予)のような言葉で問題を先送りしてはならない。
地層処分より良い画期的な方法は簡単に見つからない。処分は100年かかる事業。すべての課題を解決してから始めるのでなく、技術開発をしながら一歩ずつ前へ進むものだ。
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◇高レベル放射性廃棄物と地層処分
原発の使用済み核燃料の再処理で、ウランとプルトニウムを分離する際に残る廃液が高レベル放射性廃棄物。ガラスで固めた直後は表面温度200度以上、放射線量は浴びると20秒で死ぬ毎時1500シーベルトで、天然ウランと同程度の線量に下がるまで数万年かかる。政府はこれらを地下300メートルより深い地層に埋める方針だ。原子力発電環境整備機構が2002年以降、処分場受け入れ自治体を公募したが、見つからなかった。世界ではフィンランド、スウェーデンが候補地を決めたものの、地層処分を始めた国はない。経済産業省の部会は今月、「長期安定した場所を国内で選定できる見通しがついた」と結論付けたが、具体的な選定プロセスは決まっていない。
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■人物略歴
◇すずき・たつじろう
1951年大阪市生まれ。東京大工学部卒。2010年1月〜今年3月、原子力委員長代理。4月から長崎大核兵器廃絶研究センター副センター長・教授。