一国の財政、金融機関が破綻する事態は、過去に幾つかの事例がありますが、大変なことです。当事国国民が受けるさまざまな窮乏策は、国民生活を直撃し、苦痛を与えます。
なぜ、このような財政破綻、金融危機を招いたのかを分析し、改善することが必要です。しかし、その前に、現実の問題をある程度緩和する政治的対応策は短期的に必要です。
<毎日新聞>ギリシャ、緊迫の一週間 EU支援拒否、破綻危機
欧州連合(EU)がギリシャ向け金融支援を今月30日で打ち切る方針を決め、ギリシャ経済は極めて厳しい状況に追い込まれた。ギリシャが借金を返済できなくなる債務不履行(デフォルト)に陥り、週明けからの金融市場が混乱するのか。7月5日の国民投票に向けて、さまざまなケースが想定され、命運を決める1週間となりそうだ。
◆ケース1 IMFへ返済できず
◇今週にもデフォルト
ギリシャ政府が今週にもデフォルトに陥り、経済が混乱する可能性がある。市場では「最も可能性が高いのでは」との見方がある。
ギリシャは30日に国際通貨基金(IMF)への借金16億ユーロ(約2200億円)の返済期限を迎える。ギリシャ政府の手元資金はほぼ枯渇しており、EUの支援打ち切りで、返済できない可能性が高まった。
IMFは最終的に理事会で「デフォルト」を認定するため、猶予される余地もあるが、早ければ7月1日にユーロ圏で初の財政破綻が確定する。ギリシャの信用は低下し、金融市場での混乱や銀行からの資金引き出しが加速する恐れもある。
焦点となるのは欧州中央銀行(ECB)の対応だ。ギリシャでは銀行休業日の27日、市民が銀行の現金自動受払機(ATM)に殺到。ロイター通信によると27日の預金流出はATMだけで推定5億〜6億ユーロという。
ギリシャの銀行はECBによる資金供給によってかろうじて資金繰りを維持している。ECBは28日に資金供給を継続することを決めたが、「決定を見直す準備がある」としており、デフォルトを受けて「ギリシャの銀行は健全ではない」と判断し、支援を断ち切る恐れもある。銀行は大量の預金引き出しに応じられず、窓口閉鎖などの非常措置を取らざるを得ない。
ギリシャ政府にとっても影響は深刻だ。ギリシャ政府は金融市場で国債を発行してお金を調達することができないため、国内銀行から毎月数十億ユーロを借りて、年金や公務員給与の支払いに充てている。ECBが支援を絶てば銀行が政府の借金に応じることもできなくなり、ギリシャ政府の資金繰りも早晩行き詰まる。
◆ケース2 国民投票で緊縮否決
◇ユーロ離脱も視野
IMFがデフォルト認定を先送りしたり、ECBが資金供給を継続したりして混乱を回避し、国民投票が7月5日に実施されるケースも想定される。
ギリシャ紙が27日発表した世論調査によると、国民の3人中2人はユーロ圏残留を望んでおり、回答者の57・5%は「政府は債権者との合意を取り付けるべきだ」と考えている。だが、投票の質問が「債権者の再建策を受け入れるかどうか」のため、「賛否半々の接戦」(ギリシャ人ジャーナリスト)との見方が一般的だ。
投票の結果、ギリシャ国民がEUなど債権者側の提案に「ノー」を突きつけた場合、デフォルトだけでなく、最悪の場合にはユーロ圏からの離脱も視野に入る。
欧州では、2013年春に金融危機に陥ったキプロスが、銀行窓口の閉鎖や海外送金の制限を長期間継続した例があり、ギリシャ政府がこうした道を選ぶ可能性はある。
ただ、銀行の閉鎖や、年金・公務員給与の不払いをいつまでも続けるわけにはいかない。ギリシャ政府がEUとの再交渉に踏み切らない場合は、「ギリシャ政府は、将来の税収などを担保に借用書を発行するなど、『事実上の2通貨制』を取らざるを得なくなる」(欧州大手銀アナリスト)との指摘もある。EU提案の否決は、「ユーロ圏離脱を承認したと受け取られてしまう」(欧州シンクタンク分析官)可能性もあり、国民にユーロ圏離脱の世論が高まる可能性もある。
◆ケース3 国民投票で受け入れ
◇実効性には疑問符
一方、国民投票でEUなどの提案を受け入れるとの結果が出た場合、デフォルトが回避される可能性がある。
チプラス首相は「国民の民主的な選択を受け入れる」と述べており、デイセルブルム・ユーロ圏財務相会合議長によると、ギリシャのバルファキス財務相はユーロ圏他国財務相に対して「国民投票で再建策が支持されれば履行する」と返答したという。
ギリシャのパブロプロス大統領(親EU派の中道右派政党出身)は28日、「ギリシャが欧州とユーロ圏に残る道を乱すべきではない。来週の日曜(7月5日)は、国民の成熟と決意を示す重要な時となる」と述べ、国民がEU提案に賛成することに期待を示した。
だが、民意の結果とはいえ、チプラス政権がいったんは「国民を侮辱する最後通告」として拒否した再建策を履行する政治的意思と能力があるのかという疑問符が付く。
◇週明け市場、波乱含み
ギリシャのデフォルトが現実味を帯びてきたことで、週明けの株式市場などは波乱含みの展開となりそうだ。世界経済の先行き不透明感が広がり、市場では「世界的な株安に陥る恐れもある」との見方も出る。
市場関係者の多くは、ギリシャとEUが金融支援の延長で合意し、最終的にデフォルトが回避されると楽観していた。東京株式市場は24日、日経平均株価の終値が2万868円と2000年のITバブル時の高値を超え、1996年12月以来約18年半ぶりの高水準を記録した。だが、情勢が一転し、投資家心理を急速に冷え込ませる恐れがある。
第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「投資家はリスク回避の姿勢になり、(リスク資産の)株を売る動きが広がるだろう」と日米欧などの株価が下落する可能性を指摘。さらに、「ユーロを売って、相対的に安全資産とされる円を買う動きを強めるのではないか」とも予測する。
日経平均はこれまで円安を背景にした輸出企業の好業績がけん引する形で回復してきたが、円高が進めば輸出企業の業績にも冷や水を浴びせかねない。先週末26日の日経平均終値は2万706円だったが、「週明けには2万円割れもありうる」との観測が出ている。
一方、影響は一時的と見る向きもある。ギリシャ危機が深刻化した10〜12年ごろと異なり、民間金融機関は保有していたギリシャ国債の大半を既に売却しており、損失は限られる。また、ECBなどによる安全網も整備され、「イタリアやスペインなど周辺国に危機が波及していない」(SMBC日興証券の嶋津洋樹シニア債券エコノミスト)との指摘もある。