残念。その思いを今朝4時過ぎ、テレビにくぎ付けになっていた日本人のすべてが抱いただろう。「金メダルに最も近い選手」と世界からも見られていた17歳の小柄な女の子が、メダルにとどかなかった。ジャンプにとっては不利とされるわずかな追い風が、小柄で軽量の彼女にとっては大柄で体重もしっかりある欧米選手より大きなハンディとなったのか。それともオリンピックという大舞台での金メダルへの周囲の期待の重さに、小さな肩が押しつぶされてしまったのか。インタビューでは、いつものように冷静に答えていた彼女だが、競技が終わった後、入賞を逃したもう一人の選手と抱き合って泣いていたという。
まだ17歳。まだ4年後がある。と、言っても、これからの4年間は彼女にとって気が遠くなるほどの長い時間になるだろう。でも、その試練はきっと彼女を、ただ強い選手というだけでなく、人間としてもさらに大きくしてくれるに違いない。彼女はただ強い選手というだけではない。練習や体力トレーニングに明け暮れた毎日ではなく、1日11時間の猛勉強で、高校卒業の学力認定試験にも合格していたという。ただのスポーツバカではない。彼女が4年後、どんな素晴らしい日本人として私たちを再びテレビに釘づけにしてくれるだろうか。ソチでは4位に沈んだが、私は彼女に「国民栄誉賞」を授与したい思いだ。それも4年後ではなく、今だ。彼女の名前は私の脳裏に、私が死を迎えるまで刻み込まれる。高梨沙羅。ありがとう。
NHK会長の籾井勝人氏が1月25日の就任会見で発言した内容が国内外で大きな問題になった。私は籾井氏の発言が問題化したことで、肝心の籾井氏が「個人的な見解を述べただけ」と釈明してしまったこと自体にNHK会長としての資質と見識を問うべきだと思ったが、24日に自転車で転倒して大けがをおい、左こめかみ部の骨折で入院手術を受け、一昨日の2月10日に退院したばかりという状況だったので、ブログで籾井発言についての私の見解(「見解」とは以下述べるようなことを意味する)を即座に述べることができなかった。まだ左手小指が十分に使えず、キータッチは不自由だが、この問題を籾井氏が謝罪したことで幕引きにすべきでないと思うので、急きょブログを再開することにした。
私の見解とはこうである(これまでブログで散々書いてきたことなので、読者には目にタコができる話かもしれないが…※「耳にタコができる」の書き間違いではない)。
●歴史認識の基準をいつまでも「勝てば官軍、負ければ賊軍」に置くのは間違
っている。
●「敗軍の将、兵を語らず」では過去の過ちを二度と繰り返さないための検証
作業にとって百害あって一利ない。
歴史認識の方法論はこれがすべてというわけではないが、籾井発言を検証する場合にはこの視点で考える必要がある。籾井発言の内容についてはきわめて批判的な朝日新聞の記述(朝日新聞デジタル)から引用する。
NHK会長の籾井勝人氏は25日の就任会見で、従軍慰安婦について「戦争をしているどこの国にもあった」と述べた上で、日本に補償を求める韓国を疑問視した。従軍慰安婦問題を取り上げた過去のNHK番組に関連し、この問題に対する見解を問われて答えた。尖閣諸島・竹島など領土問題については、国際放送で「明確に日本の立場を主張するのは当然、政府が右ということを左というわけにはいかない」と話した。
この記述は私に言わせれば中学生以下の作文能力の持ち主としか思えない。まず「事実」を述べること(それを「認識」という)と、その事実についての考え方や解釈を言葉や文字にすること(それを「見解」という)はまったく異なるということすら朝日新聞のアホな記者は分かっていないということだ。従軍慰安婦について籾井氏は「(その当時は)どこの国にもあった」という認識を示したにすぎず、その籾井氏の認識が事実と異なるのであれば、「従軍慰安婦を集めたのは日本軍だけだった」という「事実」を明らかにして籾井氏の認識の誤りを指摘すべきであった。
そもそも、記者会見で質問された「従軍慰安婦問題を取り上げた過去のNHK番組」とは2001年1月30日に放送された『戦争をどう裁くか』シリーズの回目「問われる戦時性暴力」のことを指している。この番組の内容は、先の大戦で日本軍が朝鮮(韓国)で行った従軍慰安婦の公募は、「日本軍による性奴隷制だ」という認識に基づいて架空の民衆法廷(日本軍政奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷)を開き、2000年12月12日に裁判長が「天皇裕仁(※昭和天皇)及び日本国を、強姦および性奴隷制度について、人道に反する罪で有罪」との判決を下すというものだった。
この放送に猛烈な反発を示したのは言うまでもなく右翼団体であった。放送開始前から番組内容についての情報を入手して2001年1月27日には右翼団体が集結してNHKに押しかけ放送中止を求める抗議活動を行ったり、街宣車による抗議活動を展開した。が、NHKは従軍慰安婦問題に関するきちんとした検証もせず、予定通り放送した。総合テレビではなく教育テレビ(現Eテレ)で22:00~22:40という時間帯での放送だったこともあって視聴率も低く、当時は問題が表面化することはなかった。この『戦争をどう裁くか』シリーズは4回にわたり、1回目が「人道に対する罪」、2回目が問題になった放送、3回目は「いまも続く戦時性暴力」、4回目が「和解は可能か」であり、検証不十分とはいえ戦争に付きまとう問題に正面から向かい合うという姿勢で制作された、それなりに意味のある番組であった。
が、人々の記憶からとっくに消え去っていたこの番組を墓場から掘り返したのが朝日新聞だった。2005年1月12日、朝日新聞は『NHK「慰安婦問題」改変 中川昭・安倍氏「内容偏り」前日、幹部呼び指摘』との見出しで、中川昭一・経産相と安倍晋三・内閣官房副長官がこの番組の編集についてNHK上層部に圧力をかけたという記事を載せた。当然NHK内部には驚愕が走った。番組内容がどうだったかではなく、番組の編集に政治家が関与し、その関与をNHKが受け入れたかどうかが大問題になったのである。
朝日新聞が報じた翌13日、NHKのコンプライアンス推進委員会に対しNHKの番組制作局・長井暁チーフプロデューサーが「政治介入を受けた」という内部告発をした。長井氏の告発は、中川・安倍両氏が事前に番組内容を知って「公平中立な放送をすべきだ」と圧力をかけ、また会長の海老沢勝二氏(報道局出身)もそうした経緯のすべてを知っており、その責任は重大だというものだった。さらに永田浩三プロデューサーもコンプライアンス委員会で、安倍氏が放送総局長を呼びつけて番組内容の変更を(事実上)迫ったと証言した。
当時、NHKは紅白歌合戦などで番組制作局の予算使い込み問題が発覚して視聴者の不信感を買い、視聴料不払い運動が発生しており、ただでさえ海老沢会長は窮地に立たされていた。海外放送や衛星放送など拡大方針を打ち出していた海老沢氏も四面楚歌の中で退陣を余儀なくされた。
一方、政界も大揺れに揺れた。「政界のプリンス」安倍晋三氏もNHKに対する圧力疑惑を払しょくしなければならない羽目に追い込まれた。安倍氏は朝日新聞報道の直後からテレビ各局の報道番組に出演し、朝日新聞の記事は事実無
根と真っ向から否定、「放送法に基づいていればいいと言っただけ」と、圧力をかけた覚えはないと主張した。またこの番組の制作には北朝鮮の工作員が関与していたとの見方も示したが、その根拠はいまだ明らかにされていない。また中川氏も1月27日の衆院予算委員会で朝日新聞の記事にはいくつかの事実誤認があるとして、朝日新聞に対して訂正と謝罪を求めていることを明らかにした。
さらにNHKは「朝日新聞虚偽報道問題」としてニュース7で連日10分以上にわたる朝日新聞批判キャンペーン放送を行った。公共放送を表看板にしているNHKとしては黙っていられなかったのだろう。またNHKは朝日新聞に対して公開質問状を出したことも公表、中川・安倍両氏の記者会見の映像に相当の時間を割くなど、自己防衛に必死だった。
他の新聞各紙もこの問題を無視するわけにはいかなかった。朝日新聞はNHKから「虚偽報道」と決めつけられたのに対して「検証記事」を掲載したが、報道を裏付ける事実は明らかにできなかったようだ。読売新聞をはじめ毎日新聞や日本経済新聞も社説で「朝日新聞の検証は不十分」と断定した。
結局、この問題の真相はそれ以上解明されず、うやむやな内に幕を下ろす結果となったが、背景に韓国の日本政府に対する「従軍慰安婦」に対する謝罪と賠償要求問題があった。この問題は根が深く、日本政府は「賠償問題は解決済み」という態度を崩しておらず、それが日韓関係の「のど元に突き刺さったとげ」となっているという事実から目を背けることはできない。
戦時下における性暴力や売春が民主主義を標榜する国で大きな社会的・政治的問題になりだしたのは、1970年代に入ってからのようだ。とくに日韓関係で問題となったのは吉田清治氏の「証言」と韓国に対する「謝罪」が大きな役割を果たした。日本陸軍労務報告会下関支部動員部長だったと称する吉田氏が、1977年に『朝鮮人慰安婦と日本人』と題する著書で「軍令によって済州島で韓国女性を強制連行して慰安婦にした」と「証言」し、さらに83年には『私の戦争犯罪―朝鮮人強制連行』と題した著書でも「済州島で200人の韓国女性を拉致した」と「証言」し、あまつさえ83年12月には天安市に自費で「謝罪碑」を建てるために訪韓して土下座までした。この吉田氏の活動を全面的にバックアップしたのが朝日新聞だった。吉田氏の著作の内容を検証せずに氏を英雄視するかのような記事を掲載し、歴史家で教科書裁判まで起こして社会問題になった家永三郎氏も吉田氏の行為を絶賛した。とくに朝日新聞はこの時期、慰安婦問題をことさらに書きたて、朝日新聞の「従軍慰安婦」報道が韓国に伝わって韓国の反日感情に火がついたという動かしがたい歴史的事実がある(これは私の現時点での認識)。従軍慰安婦問題が日韓の政治問題化したのはそれ以降だと思う。それ以前には私がネット検索した限りでは、他の要因で従軍慰安婦問題が日韓関係を悪化させた歴史的事実は見つけられなかった。
言っておくが、私は右翼でもなければ左翼でもない。保守でもなければ革新でもない。そうした政治的思想はすべて持たないことにしている。私が残り少ない人生で、どうしてもしておきたいことは一歩でも二歩でも、まだ十分に成熟したとは言えない民主主義の政治システムを前進させたいということだけである。
日本人のほとんどは日本が民主主義の国だと思っている。アメリカ人も自分たちの国は民主主義の国だと思っている。自由主義国家だけでなく、共産主義を標榜する国も自分たちの国は民主主義の国だと思っている。北朝鮮に至っては正式な国名を「朝鮮民主主義人民共和国」としているくらいだ。それぞれの国や国民が後生大事にイメージしている「民主主義」は、それぞれの国の支配的宗教や文化、風習、歴史、政治システムなどがむき出しに反映されている。「民主主義」という概念を自分たちにとって都合のいいように解釈させるのではなく、世界中が共有できる普遍的な概念として確立するための段階に、私たちの世代は差し掛かってきているという思いを私は抱いている。そうした私の思いを世界中の多くの人たちが共有していただくことができれば、「自分たちの民主主義の欠陥はどこにあるのか」という疑問を抱いてくれるはずで、そうなれば人類の歴史に2000年以上刻まれてきた「民主主義」という政治システムを一歩でも二歩でも前進させることが出来るはずだ。
あらかじめ明らかにしておくが、民主主義にはゴールがない。だから現代は頂上に向かって何合目まで到達しているのかは誰にもわからない。ただ言えることは、産業革命(=近代への扉)が、現代の自由主義国家の民主主義体制への巨大な一歩を記したということ、さらに二つの世界大戦を経て民主主義は大きく前進したこと、だけど民主主義はまだまだ未成熟な部分を残していること、そういう認識を世界中が共有するようになれば、民主主義は一気に成熟への道を歩み出すだろうということだけだ。その時、民主主義をさらに成熟させるための次のステップが見えてくる。その視点でこのブログも書いている。
退院したばかりで、左手もまだ十分に回復していず、正直ここまで書くのに疲れた。この続きは出来れば明日には投稿したいと思っているが、明後日になるかもしれない。その場合はご容赦願う。
と、ここまで書いてNHKの11日午後6時のニュースを見たら、とんでもないことが報道された。
私のブログ原稿は投稿日当日に書いているわけではない。新聞朝刊の記事と同様投稿前日には書きあげて、投稿直前に推敲して多少修正したりして投稿している。だからこのブログも10日の午後6時前には書き終わっていた。だが、NHKのニュースを見て、急きょ追加することにした。以下はNHKオンラインのニュース「国際」から転記する。このニュースのタイトルは『「在日米軍は性犯罪に甘い」と指摘』である。実はすでに私の手元にはネット検索した「敗戦後日本における米軍慰安婦と特殊慰安婦協会(RAA)」と「在韓米軍慰安婦」「国連軍による性暴力」についての記事のプリントがある。また昨年6月5日に投稿した『先の大戦でアメリカ兵もフランス女性をレイプしたり買春していた』というブログのプリントもある。このブログは沖縄で頻発する米軍兵士による性犯罪を防ぐには兵士の性的欲求を発散させる手段を講じるしかないという趣旨の橋下徹・日本維新の会共同代表の発言が波紋を呼んだことに関連して書いたものだ。私が過去に投稿したブログについては明日か明後日にでも再検証するとして、とりあえずNHKのニュース記事を読んでいただきたい。
性犯罪を行った在日アメリカ軍の兵士の処分について、AP通信(※世界最大の通信社)は、軍法会議で裁かれる兵士の割合が軍全体と比べ大幅に低いことが明らかになったと伝え、性犯罪に対する処分が甘いと指摘しました。
これはAP通信が情報公開請求を通じて入手した2005年から去年前半までのアメリカ軍の資料を基に伝えたものです。
それによりますと、在日アメリカ軍の海軍と海兵隊では合わせて473件の性犯
罪の申し立てがありましたが、このうち軍法会議で裁かれたのは116件と、25%以下でした。
また性犯罪で処分を受けた在日アメリカ軍の兵士の中で詳細が分かった244人のうち3分の2は収監されずに、罰金や降格、除隊などの処分にとどまっていたということです。
深刻な性犯罪の半分以上は軍関係者が被害者だとされていますが、日本人の割合などは明らかにされていません。
被害者のうち神奈川県内でアメリカ兵に乱暴されたというオーストラリア人の女性は、「アメリカ軍は日本においてもきちんと説明責任を果たし、性犯罪に対処してほしい」と話し、AP通信は、「在日アメリカ軍の性犯罪に対する処分は甘く、判断に一貫性もない」と厳しく指摘しています。
報道に対して、在日アメリカ軍のアンジェレラ司令官は11日「不適切な行いに対する申し立ては真摯に受け止め、被害者のプライバシーを守りながら法律に基づいて加害者に責任を負わせている」とのコメントを発表しました。
NHKはなぜか、ニュース7でもニュースウォッチ9でも、この問題を報道しなかった。6時のニュースで報道したことで政府筋からストップがかかったのか。NHKが報道を「自粛」しても、新聞や民放が黙視するわけがない。明日(この原稿を書いているのは11日の午後10時である)の新聞がどう報道するか、ジャーナリズムの真髄が問われている。念のため、私は反米主義者ではない。海外では最も親しみを感じている国である。それだけに、アメリカのためにもNHKのためにも悲しむべきことだと思っている。
まだ17歳。まだ4年後がある。と、言っても、これからの4年間は彼女にとって気が遠くなるほどの長い時間になるだろう。でも、その試練はきっと彼女を、ただ強い選手というだけでなく、人間としてもさらに大きくしてくれるに違いない。彼女はただ強い選手というだけではない。練習や体力トレーニングに明け暮れた毎日ではなく、1日11時間の猛勉強で、高校卒業の学力認定試験にも合格していたという。ただのスポーツバカではない。彼女が4年後、どんな素晴らしい日本人として私たちを再びテレビに釘づけにしてくれるだろうか。ソチでは4位に沈んだが、私は彼女に「国民栄誉賞」を授与したい思いだ。それも4年後ではなく、今だ。彼女の名前は私の脳裏に、私が死を迎えるまで刻み込まれる。高梨沙羅。ありがとう。
NHK会長の籾井勝人氏が1月25日の就任会見で発言した内容が国内外で大きな問題になった。私は籾井氏の発言が問題化したことで、肝心の籾井氏が「個人的な見解を述べただけ」と釈明してしまったこと自体にNHK会長としての資質と見識を問うべきだと思ったが、24日に自転車で転倒して大けがをおい、左こめかみ部の骨折で入院手術を受け、一昨日の2月10日に退院したばかりという状況だったので、ブログで籾井発言についての私の見解(「見解」とは以下述べるようなことを意味する)を即座に述べることができなかった。まだ左手小指が十分に使えず、キータッチは不自由だが、この問題を籾井氏が謝罪したことで幕引きにすべきでないと思うので、急きょブログを再開することにした。
私の見解とはこうである(これまでブログで散々書いてきたことなので、読者には目にタコができる話かもしれないが…※「耳にタコができる」の書き間違いではない)。
●歴史認識の基準をいつまでも「勝てば官軍、負ければ賊軍」に置くのは間違
っている。
●「敗軍の将、兵を語らず」では過去の過ちを二度と繰り返さないための検証
作業にとって百害あって一利ない。
歴史認識の方法論はこれがすべてというわけではないが、籾井発言を検証する場合にはこの視点で考える必要がある。籾井発言の内容についてはきわめて批判的な朝日新聞の記述(朝日新聞デジタル)から引用する。
NHK会長の籾井勝人氏は25日の就任会見で、従軍慰安婦について「戦争をしているどこの国にもあった」と述べた上で、日本に補償を求める韓国を疑問視した。従軍慰安婦問題を取り上げた過去のNHK番組に関連し、この問題に対する見解を問われて答えた。尖閣諸島・竹島など領土問題については、国際放送で「明確に日本の立場を主張するのは当然、政府が右ということを左というわけにはいかない」と話した。
この記述は私に言わせれば中学生以下の作文能力の持ち主としか思えない。まず「事実」を述べること(それを「認識」という)と、その事実についての考え方や解釈を言葉や文字にすること(それを「見解」という)はまったく異なるということすら朝日新聞のアホな記者は分かっていないということだ。従軍慰安婦について籾井氏は「(その当時は)どこの国にもあった」という認識を示したにすぎず、その籾井氏の認識が事実と異なるのであれば、「従軍慰安婦を集めたのは日本軍だけだった」という「事実」を明らかにして籾井氏の認識の誤りを指摘すべきであった。
そもそも、記者会見で質問された「従軍慰安婦問題を取り上げた過去のNHK番組」とは2001年1月30日に放送された『戦争をどう裁くか』シリーズの回目「問われる戦時性暴力」のことを指している。この番組の内容は、先の大戦で日本軍が朝鮮(韓国)で行った従軍慰安婦の公募は、「日本軍による性奴隷制だ」という認識に基づいて架空の民衆法廷(日本軍政奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷)を開き、2000年12月12日に裁判長が「天皇裕仁(※昭和天皇)及び日本国を、強姦および性奴隷制度について、人道に反する罪で有罪」との判決を下すというものだった。
この放送に猛烈な反発を示したのは言うまでもなく右翼団体であった。放送開始前から番組内容についての情報を入手して2001年1月27日には右翼団体が集結してNHKに押しかけ放送中止を求める抗議活動を行ったり、街宣車による抗議活動を展開した。が、NHKは従軍慰安婦問題に関するきちんとした検証もせず、予定通り放送した。総合テレビではなく教育テレビ(現Eテレ)で22:00~22:40という時間帯での放送だったこともあって視聴率も低く、当時は問題が表面化することはなかった。この『戦争をどう裁くか』シリーズは4回にわたり、1回目が「人道に対する罪」、2回目が問題になった放送、3回目は「いまも続く戦時性暴力」、4回目が「和解は可能か」であり、検証不十分とはいえ戦争に付きまとう問題に正面から向かい合うという姿勢で制作された、それなりに意味のある番組であった。
が、人々の記憶からとっくに消え去っていたこの番組を墓場から掘り返したのが朝日新聞だった。2005年1月12日、朝日新聞は『NHK「慰安婦問題」改変 中川昭・安倍氏「内容偏り」前日、幹部呼び指摘』との見出しで、中川昭一・経産相と安倍晋三・内閣官房副長官がこの番組の編集についてNHK上層部に圧力をかけたという記事を載せた。当然NHK内部には驚愕が走った。番組内容がどうだったかではなく、番組の編集に政治家が関与し、その関与をNHKが受け入れたかどうかが大問題になったのである。
朝日新聞が報じた翌13日、NHKのコンプライアンス推進委員会に対しNHKの番組制作局・長井暁チーフプロデューサーが「政治介入を受けた」という内部告発をした。長井氏の告発は、中川・安倍両氏が事前に番組内容を知って「公平中立な放送をすべきだ」と圧力をかけ、また会長の海老沢勝二氏(報道局出身)もそうした経緯のすべてを知っており、その責任は重大だというものだった。さらに永田浩三プロデューサーもコンプライアンス委員会で、安倍氏が放送総局長を呼びつけて番組内容の変更を(事実上)迫ったと証言した。
当時、NHKは紅白歌合戦などで番組制作局の予算使い込み問題が発覚して視聴者の不信感を買い、視聴料不払い運動が発生しており、ただでさえ海老沢会長は窮地に立たされていた。海外放送や衛星放送など拡大方針を打ち出していた海老沢氏も四面楚歌の中で退陣を余儀なくされた。
一方、政界も大揺れに揺れた。「政界のプリンス」安倍晋三氏もNHKに対する圧力疑惑を払しょくしなければならない羽目に追い込まれた。安倍氏は朝日新聞報道の直後からテレビ各局の報道番組に出演し、朝日新聞の記事は事実無
根と真っ向から否定、「放送法に基づいていればいいと言っただけ」と、圧力をかけた覚えはないと主張した。またこの番組の制作には北朝鮮の工作員が関与していたとの見方も示したが、その根拠はいまだ明らかにされていない。また中川氏も1月27日の衆院予算委員会で朝日新聞の記事にはいくつかの事実誤認があるとして、朝日新聞に対して訂正と謝罪を求めていることを明らかにした。
さらにNHKは「朝日新聞虚偽報道問題」としてニュース7で連日10分以上にわたる朝日新聞批判キャンペーン放送を行った。公共放送を表看板にしているNHKとしては黙っていられなかったのだろう。またNHKは朝日新聞に対して公開質問状を出したことも公表、中川・安倍両氏の記者会見の映像に相当の時間を割くなど、自己防衛に必死だった。
他の新聞各紙もこの問題を無視するわけにはいかなかった。朝日新聞はNHKから「虚偽報道」と決めつけられたのに対して「検証記事」を掲載したが、報道を裏付ける事実は明らかにできなかったようだ。読売新聞をはじめ毎日新聞や日本経済新聞も社説で「朝日新聞の検証は不十分」と断定した。
結局、この問題の真相はそれ以上解明されず、うやむやな内に幕を下ろす結果となったが、背景に韓国の日本政府に対する「従軍慰安婦」に対する謝罪と賠償要求問題があった。この問題は根が深く、日本政府は「賠償問題は解決済み」という態度を崩しておらず、それが日韓関係の「のど元に突き刺さったとげ」となっているという事実から目を背けることはできない。
戦時下における性暴力や売春が民主主義を標榜する国で大きな社会的・政治的問題になりだしたのは、1970年代に入ってからのようだ。とくに日韓関係で問題となったのは吉田清治氏の「証言」と韓国に対する「謝罪」が大きな役割を果たした。日本陸軍労務報告会下関支部動員部長だったと称する吉田氏が、1977年に『朝鮮人慰安婦と日本人』と題する著書で「軍令によって済州島で韓国女性を強制連行して慰安婦にした」と「証言」し、さらに83年には『私の戦争犯罪―朝鮮人強制連行』と題した著書でも「済州島で200人の韓国女性を拉致した」と「証言」し、あまつさえ83年12月には天安市に自費で「謝罪碑」を建てるために訪韓して土下座までした。この吉田氏の活動を全面的にバックアップしたのが朝日新聞だった。吉田氏の著作の内容を検証せずに氏を英雄視するかのような記事を掲載し、歴史家で教科書裁判まで起こして社会問題になった家永三郎氏も吉田氏の行為を絶賛した。とくに朝日新聞はこの時期、慰安婦問題をことさらに書きたて、朝日新聞の「従軍慰安婦」報道が韓国に伝わって韓国の反日感情に火がついたという動かしがたい歴史的事実がある(これは私の現時点での認識)。従軍慰安婦問題が日韓の政治問題化したのはそれ以降だと思う。それ以前には私がネット検索した限りでは、他の要因で従軍慰安婦問題が日韓関係を悪化させた歴史的事実は見つけられなかった。
言っておくが、私は右翼でもなければ左翼でもない。保守でもなければ革新でもない。そうした政治的思想はすべて持たないことにしている。私が残り少ない人生で、どうしてもしておきたいことは一歩でも二歩でも、まだ十分に成熟したとは言えない民主主義の政治システムを前進させたいということだけである。
日本人のほとんどは日本が民主主義の国だと思っている。アメリカ人も自分たちの国は民主主義の国だと思っている。自由主義国家だけでなく、共産主義を標榜する国も自分たちの国は民主主義の国だと思っている。北朝鮮に至っては正式な国名を「朝鮮民主主義人民共和国」としているくらいだ。それぞれの国や国民が後生大事にイメージしている「民主主義」は、それぞれの国の支配的宗教や文化、風習、歴史、政治システムなどがむき出しに反映されている。「民主主義」という概念を自分たちにとって都合のいいように解釈させるのではなく、世界中が共有できる普遍的な概念として確立するための段階に、私たちの世代は差し掛かってきているという思いを私は抱いている。そうした私の思いを世界中の多くの人たちが共有していただくことができれば、「自分たちの民主主義の欠陥はどこにあるのか」という疑問を抱いてくれるはずで、そうなれば人類の歴史に2000年以上刻まれてきた「民主主義」という政治システムを一歩でも二歩でも前進させることが出来るはずだ。
あらかじめ明らかにしておくが、民主主義にはゴールがない。だから現代は頂上に向かって何合目まで到達しているのかは誰にもわからない。ただ言えることは、産業革命(=近代への扉)が、現代の自由主義国家の民主主義体制への巨大な一歩を記したということ、さらに二つの世界大戦を経て民主主義は大きく前進したこと、だけど民主主義はまだまだ未成熟な部分を残していること、そういう認識を世界中が共有するようになれば、民主主義は一気に成熟への道を歩み出すだろうということだけだ。その時、民主主義をさらに成熟させるための次のステップが見えてくる。その視点でこのブログも書いている。
退院したばかりで、左手もまだ十分に回復していず、正直ここまで書くのに疲れた。この続きは出来れば明日には投稿したいと思っているが、明後日になるかもしれない。その場合はご容赦願う。
と、ここまで書いてNHKの11日午後6時のニュースを見たら、とんでもないことが報道された。
私のブログ原稿は投稿日当日に書いているわけではない。新聞朝刊の記事と同様投稿前日には書きあげて、投稿直前に推敲して多少修正したりして投稿している。だからこのブログも10日の午後6時前には書き終わっていた。だが、NHKのニュースを見て、急きょ追加することにした。以下はNHKオンラインのニュース「国際」から転記する。このニュースのタイトルは『「在日米軍は性犯罪に甘い」と指摘』である。実はすでに私の手元にはネット検索した「敗戦後日本における米軍慰安婦と特殊慰安婦協会(RAA)」と「在韓米軍慰安婦」「国連軍による性暴力」についての記事のプリントがある。また昨年6月5日に投稿した『先の大戦でアメリカ兵もフランス女性をレイプしたり買春していた』というブログのプリントもある。このブログは沖縄で頻発する米軍兵士による性犯罪を防ぐには兵士の性的欲求を発散させる手段を講じるしかないという趣旨の橋下徹・日本維新の会共同代表の発言が波紋を呼んだことに関連して書いたものだ。私が過去に投稿したブログについては明日か明後日にでも再検証するとして、とりあえずNHKのニュース記事を読んでいただきたい。
性犯罪を行った在日アメリカ軍の兵士の処分について、AP通信(※世界最大の通信社)は、軍法会議で裁かれる兵士の割合が軍全体と比べ大幅に低いことが明らかになったと伝え、性犯罪に対する処分が甘いと指摘しました。
これはAP通信が情報公開請求を通じて入手した2005年から去年前半までのアメリカ軍の資料を基に伝えたものです。
それによりますと、在日アメリカ軍の海軍と海兵隊では合わせて473件の性犯
罪の申し立てがありましたが、このうち軍法会議で裁かれたのは116件と、25%以下でした。
また性犯罪で処分を受けた在日アメリカ軍の兵士の中で詳細が分かった244人のうち3分の2は収監されずに、罰金や降格、除隊などの処分にとどまっていたということです。
深刻な性犯罪の半分以上は軍関係者が被害者だとされていますが、日本人の割合などは明らかにされていません。
被害者のうち神奈川県内でアメリカ兵に乱暴されたというオーストラリア人の女性は、「アメリカ軍は日本においてもきちんと説明責任を果たし、性犯罪に対処してほしい」と話し、AP通信は、「在日アメリカ軍の性犯罪に対する処分は甘く、判断に一貫性もない」と厳しく指摘しています。
報道に対して、在日アメリカ軍のアンジェレラ司令官は11日「不適切な行いに対する申し立ては真摯に受け止め、被害者のプライバシーを守りながら法律に基づいて加害者に責任を負わせている」とのコメントを発表しました。
NHKはなぜか、ニュース7でもニュースウォッチ9でも、この問題を報道しなかった。6時のニュースで報道したことで政府筋からストップがかかったのか。NHKが報道を「自粛」しても、新聞や民放が黙視するわけがない。明日(この原稿を書いているのは11日の午後10時である)の新聞がどう報道するか、ジャーナリズムの真髄が問われている。念のため、私は反米主義者ではない。海外では最も親しみを感じている国である。それだけに、アメリカのためにもNHKのためにも悲しむべきことだと思っている。