『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄著
人間のどうしようもない感情や心情・・・ややこしい諸々が詰まったお話しで、中でも「セイタカアワダチソウの空」「花粉・受粉」には涙してしまいました。 最初は余りの描写に衝撃を受け、このまま読み進めることができるのか不安でしたが、読んでいくうちに「人間」の悲哀?のようなものを感じ、それとは別に人生捨てたもんじゃない!という部分も感じることができ、深い本だなぁ~との感想を持ちました。
文中には過激な部分も多く含まれていて、映画なら所謂「R指定」です。
📖ミクマリ:「斎藤 卓巳」、父が家を出てしまったあと、母(斉藤 寿美子)が助産院を始める前に連れて行かれた「水分神社(みくまりじんじゃ)」でのこと。 長い時間手を合わせている母に理由を聞くと、子供のこと「もちろんあんたも。ぜんぶのこども。これから生まれてくる子も、生まれてこられなかった子も。生きている子も死んだ子もぜんぶ」との応えがありました。 母の仕事を手伝う内に「生・性」に触れる主人公(高校生のオレ) この後卓巳の考えなしの行動(アルバイト感覚?)が彼を苦しめることになるのですが・・・
📖世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸:「岡本 里美(あんず)」は卓己にコスプレをさせ、自分が作った台本通りに〇△×させる主婦。 夫婦には子供がなく、義母は不妊治療や人工授精、体外受精を勧めあれこれ二人に干渉してきます。 そして夫が妻を疑い、仕掛けた監視カメラ?で卓己と里美の映像が(特に卓巳)www(世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸)によって世間に晒されることになってしまいました。 嫉妬心から起こった行動によって・・・
📖2035年のオーガズム:「松永 七菜」は卓巳に好意を寄せる同級生。 優秀な兄は余り優秀でない家族を疎ましく思っていたのか、おかしな宗教にはまっていきますが、両親はそこから連れ戻し更生のために父親が単身赴任先で一緒に暮らすことになったことで少し明るい先が見えてきたような気持になりました。 そんな中、卓巳が世間に晒されていることを知るのでした。
📖セイタカアワダチソウの空 「福田 良太」は卓巳と七菜と近しい友人。 セイタカというあだ名で呼ばれていた少年良太は、複数のアルバイトを持ち貧困家庭が集まる団地で一人で痴ほう症の祖母の面倒をみているのです。 一方アルバイト先であるコンビニで知り合った田岡に勉強を見てもらうようになり成績はグングン伸びて行きます。 大学進学まで勧められ本人もその気になって行くのでした。 ある日、あくつ(七菜の友だちで、卓巳の写真を学校やマンション、町中のポストに配っていました)と一緒にアルバイトを頼まれ、田岡は人工的な甘い香りの広がった車内で、あくつの寝ている間に予備校の教師を辞めた経緯を話しているうちに・・・「そんな趣味、俺が望んだわけじゃないのに、勝手にオプションつけるよな神様って」と良太に打ち明けます。 それは言い訳と捉えられるかもしれませんが、哀しい運命のようにも聞こえました。
そして、良太の祖母をあくつと田岡3人で探し回って夜が明けた時、どうして自分をこんなに助けてくれるのかと質問したところ、「おれは、本当にとんでもないやつだから、それ以外のところでは、とんでもなくいいやつにならないとだめなんだ」と応えます。 田岡には良からぬ噂があり、強制わいせつ罪で逮捕されてしまいます。 良太に被害は無かったのですが、大学進学でこれまでの希望のない人生を変えようとしていたのに、どうなってしまうのか不安を感じてしまいました。 今も「ヤングケアラー」と呼ばれる若年層が多いとのこと、社会は何を見ているのでしょう。 以前観た映画「万引き家族」では戸籍を持たない子供が学校に行けず、血のつながらない人たちと暮らしていましたが・・・ 豊かな人がいる反面、こんな人たちが居ること、もっと知るべきなのではないでしょうか。
📖花粉・受粉:「斉藤 寿美子」は世間を騒がせている卓巳の母親で母子が生活するために助産院を開業。 世間の晒し者になっている息子を心配しながらも、新しい命の誕生に立ち会っているのでした。 新人の助産師みっちゃんの助けを受けながら・・・ そこへ、卓巳を心配して担任の野村先生(のっちー)が訪ねてきて思いがけず自身の妊娠を知る結果に。 その野村先生にかけた言葉「のっちー冷やしたらだめだぞ」で、のっちーは「あたしっ、なんか、卓巳くん大丈夫なような気がしてきました」には、卓巳の優しさが伝わって来ました。 七菜が毎朝誘ってくれることで学校にも通い出した矢先、玄関先に小さな骨壺があり、そこには「あんずとおまえのこどものほね」(里美の夫の仕業でしょう)と書かれた紙が入っていました。 それにショックを受け再び部屋から出て来なくなり、姿を消してしまうのですが・・・ 息子を気にしながらも新しい命を誕生させていました。
息子がいるであろう場所、二人で行った「水分神社(みくまりじんじゃ)」で見つけました。 「大きな声で泣いたら、赤んぼうたちが驚くからさ」「だいじょうぶだよ。ここなら神さましか聞いていないんだから」の会話のあと泣き続ける卓巳。 泣き止むのを待って、母は「神さまどうか、この子を守ってやってください」と手をあわせていたのでした。 「ミクマリ」では、子供のこと「もちろんあんたも。ぜんぶのこども。これから生まれてくる子も、生まれてこられなかった子も。生きている子も死んだ子もぜんぶ」のことを祈って手を合わせてましたが。
陣痛が始まった野村先生に「いよいよか。がんばれよ、のっちー」と言い、お腹に向かって「早く出てこいよー」と声をかける卓巳。
彼はきっと大丈夫だろうと涙がポロリ(´;ω;`)ウッ…でした。